1127話 勧誘?
1127話 勧誘?
「ランカさん。これまでで、いくつ無効化しましたか?」
男性のギルド職員が、ランカさんに声を掛ける。
「88個よ。残り4個になったわ。すごいわよね。まさかここまで集まるとは思わなかったわ」
「そうですね。我々も驚いています。それだけ冒険者達のつながりが強いという事なんでしょう。とても頼もしいです」
ギルド職員はうれしそうに笑うと、誇らしそうに冒険者達を見た。
「あなたは、数を確認しに来たの?」
ランカさんの問いに、ギルド職員はハッとした表情を浮かべたあと、首を横に振った。
「違います。えっと、残り4個でしたよね」
「はい」
「2個はこちらで発見しましたので、残りは2個です」
「無効化しなくていいの? もしかして他にも黒のスライムが現れたのかしら」
「残念ながら3匹目の黒のスライムは現れていません。2人は、すでに手遅れでした」
ギルド職員の言葉に、ランカさんが「そう」と小さく呟いた。
「あれは回収して、研究所へ持って行きました」
「研究所に?」
ランカさんが首を傾げると、シファルさんがギルド職員に視線を向けた。
「何か問題があったのか?」
ギルド職員はシファルさんの質問に、眉間に皺を寄せた。
そしてシファルさんを見て頷いた。
「魔力を奪われて亡くなったのですが、その状態が……今までと違うんです」
「状態が今までと違う?」
シファルさんが首を傾げると、ランカさんも不思議そうな表情でギルド職員を見る。
「はい」
ギルド職員は神妙な表情で頷くと、少し言いづらそうにした。
「今回の件で亡くなった冒険者達は、上位冒険者の報告によれば、顔色は真っ青だったものの、眠っているように見えたそうです。でも、発見された2人は、苦しそうな表情だったんです。まるで、魔力を急激に根こそぎ奪われた時のように」
ギルド職員の説明に、私は息を呑む。
「アイビー」
お父さんが私の様子に気付き、そっと背中に手を置く。
「そう。今までは違うから、見つけたあれを研究所に持って行ったのね」
ランカさんの言葉に、ギルド職員が頷く。
「はい、そうです。……誰が、こんな恐ろしい物を作ったんでしょうね」
ギルド職員は、やるせない表情で呟く。
ランカさんは、彼の肩をポンと叩き、悲しげに笑った。
「本当に誰だろうね。何がしたいのか、全く理解できないわ」
ギルド職員とランカさん達の会話に、なんとも言えない気持ちになっていると、ガタっと音がした。
音がした方を見ると、窓のふちに黒のスライムが飛び乗っていた。
「とりゅ~」
黒のスライムの鳴き声に、私たちの間に漂っていた重い空気が軽くなる。
それに思わずホッとして微笑むと、黒のスライムが少し開いた窓から外に出ていこうとしていた。
「帰っちゃうの?」
私の問いに、黒のスライムはちらっと私を見ると縦に揺れた。
そして、窓の隙間から外に出て行く。
ガタガタガタ。
「……今、あの黒のスライム。隙間が狭くて出られなかったから、焦っていたんじゃないか?」
シファルさんの言葉に、ラットルアさんが笑い始める。
ヌーガさんも楽しそうに肩を揺らす。
「そう見えたな。というか、なぜ、あそこから出て行ったんだ?」
お父さんの疑問に、シファルさんがお父さんを見る。
「隣の窓は、隙間がもっと広いんだが」
お父さんが指した窓を見ると、確かに黒のスライムが出て行った窓より隙間が広い。
「まぁ、気分なんだろう」
シファルさんの返答に、ギルド職員が噴き出した。
「すみません。あっ、黒のスライムに『冒険者ギルドで働きませんか』と勧誘しようって話していたのに!」
えっ、勧誘?
ギルド職員はそう言うと、慌てた様子でカウンターへ向かう。
黒のスライムが出て行った事を報告したのか、3人のギルド職員が走って冒険者ギルドを出て行った。
「探しに行ったのか?」
ヌーガさんが呟くと、ランカさんが笑って頷く。
「そうでしょうね。きっと、勧誘に向かったのよ」
本気で勧誘しに向かったの?
「すみません。戻りました」
皆で、ギルド職員達が走って出て行った冒険者ギルドの出入り口を見ていると、ジースさんが戻ってきた。
「おかえり、どうだった?」
「カシム町の商人から買ったそうです。カシム町に問い合わせる事になりました」
カシム町は、ロティスさん達がいる、商売が活発な町だよね。
そこで、魔法陣が組み込まれた盾が売られていたんだ。
もしかして王都みたいに、たくさん出回っているのかな?
「そう、あの町は商人達が競うように新しい商品を作っては売っているから、誰かがあれに目を付けたのかもしれないわね」
「多く出回っていなければいいんだけど」
ランカさんの呟きに、お父さんが神妙な表情で言った。
「あの、残りの4個を探しに行きますか?」
ジースさんの言葉に、ランカさんが頷く。
「えぇ、行きましょう。そうだ、残りは4個ではなく2個よ」
「2個は発見されたんですね」
「えぇ、最悪な形で」
ランカさんの返答に、ジースさんが肩を落とした。
「間に合いませんでしたか。行きましょうか」
ジースさんがランカさんを見ると、彼女は笑って頷いた。
「そうね。残りの2個も早く見つけないといけないから」
ランカさんの言葉に全員が頷くと、冒険者ギルドを出て、下位冒険者達が利用している冒険者広場に向かった。
「回収した道具の種類を確認しましたが、下位冒険者が狙われたようですね」
冒険者広場に向かっていると、ジースさんが呟く。
「どうして、下位冒険者だったんだろうな」
ラットルアさんが不思議そうに呟くと、シファルさんもヌーガさんも少し考え込む。
「そうよね。魔力量で考えるなら、上位冒険者が狙われる筈よね?」
ランカさんも不思議そうにそう言うと、頭を悩ませる。
「上位冒険者だと、気付かれる可能性があるからか?」
シファルさんの呟きに、ラットルアさんが首を横に振る。
「問題になった道具だけど、無効化する前のものを持ってみたけど、特に違和感などはなかったぞ」
ラットルアさんの説明に、ヌーガさんも頷く。
「俺も持ってみたが、他の安全な道具を持った時の感覚と同じだった」
「もしかして、あれを組み込めたのが、下位冒険者達が多く使う道具だけだったのかしら」
ランカさんがそう言うと、シファルさんが頷く。
「その可能性もあるんだな」
「着きましたよ」
ジースさんの言葉に、冒険者広場を見ると、少し異様な雰囲気だった。
それに首を傾げると、お父さんとラットルアさんが、私の傍に来た。
「冒険者達に落ち着きがないわね」
ランカさんの呟きにシファルさんは頷くと、冒険者広場の出入り口を警備している男性に声を掛けた。
「お疲れ様。何かあったのか?」
「お疲れ様です。『フーファ道具店』で売っていた道具に問題があり、死者が出ていると情報が流れてから、少し落ち着かないみたいです。あの店は、手頃な値段だったので、多くの下位冒険者達が利用していましたから。上位冒険者が来て、回収している道具の条件を教えてくれたのですが、やっぱり『フーファ道具店』の道具を持っていると怖いみたいです」
警備をしている男性の説明にシファルさんは頷いた。