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1130話 魔法陣研究所の主任クースと魅入られた者

最弱テイマーはゴミ拾いの旅を始めました。 — ncode.syosetu.com · All chapters

1130話 魔法陣研究所の主任クースと魅入られた者

ー魔法陣研究所の主任 クース視点ー

魔法陣第二研究所に入ると、俺の姿を見た研究員達が、不思議そうな表情を浮かべた。

俺が主に仕事をしている場所は魔法陣第一研究所で、そこからほとんど出ないからだろう。

「クース主任」

魔法陣第二研究所の管理を任せている主任補佐のチェッキーの声に視線を向けると、彼女は深く頭を下げた。

「申し訳ありませんでした」

「チェッキーのせいではありません。これは、注意を怠った彼の責任です」

「はい」

沈痛な面持ちをするチェッキーと共に、第三研究室へ向かう。

俺だけではなく、チェッキーが一緒にいる事に気付いた研究員達は、何かを察したのか顔色を悪くした。

「失礼する」

第三研究室に入ると、作業をしていた研究員達が手を止めてこちらを見る。

その中に数人が、俺を見て悲しげな表情を浮かべた。

どうやら彼等は、気付いたようだ。

王都で問題になった道具に描かれていた魔法陣を、誰が商人に教えたのか。

「ジャス」

「チェッキー補佐。どうしたんですか?」

温和な表情をしているジャスに、チェッキーは厳しい視線を向ける。

「何かあったのですか?」

「わかっていると思うが?」

チェッキーの問いに、ジャスは首を傾げる。

「そうか。それがお前の答えだな」

チェッキーは、手に持っていた書類をジャスに見せる。

「これは、問題になった道具に組み込まれていた魔法陣だ。発動しないように一部を変えているが、見覚えはないか?」

「……ありません。でも、すごいですね。これ」

ジャスがうれしそうに描かれている魔法陣を見る。

「そうか?」

俺の言葉に、ジャスは笑って俺を見る。

「はい。右から3番目に描かれている文字を使用するなんてーー」

「大した事はないだろう」

俺がジャスの言葉を遮るように言うと、ジャスから表情が消える。

「商人が雇った者は、それほど魔法陣に詳しくない。そんな彼等が描いたものだ。偶然出来上がったもので、我々が称賛するほどのものではない」

俺の言葉に、ジャスは俺を睨みつける。

「そんな事はありません。この配列は、かなり考えられて作られています。これを描いたのは、かなりすごい存在です」

自分が描いた魔法陣を貶されるのは、魅入られた者には、絶対に我慢出来ないんだろうな。

「いえ、すごくないでしょう。捕まった者達の経歴を見ましたが、ほとんど素人。そんな彼等が描いた魔法陣です。おそらく少し勉強すれば、誰でも、そう、素人でも思い付くくらいのものですよ」

チェッキーは俺の意図に気付いたのか、言い方を変えてジャスを煽る。

俺とチェッキーの説明に、ジャスは顔を下げる。

そして、次第に息が荒くなる。

「ジャス、どうした?」

チェッキーの言葉に、ジャスが顔を上げる。

それは、今まで見せていた温和な表情ではなく、怒り狂った表情だった。

「俺の描いた魔法陣を馬鹿にするな!」

どうしてジャスが魔法陣に魅入られていると、気付かなかったんだろうな。

少し煽れば、ここまで怒り狂うのに。

いや、魅入られてから長いから、この反応なのか。

「ジャスが描いた? 関係ないと言っただろう」

俺の言葉に、ジャスはバンと作業机を叩く。

「その魔法陣は、俺が考え抜いて作り上げたものだ。それこそが、魔物を根絶するための最高傑作だ!」

ジャスの言葉に、研究員達が彼から顔をそむける。

冒険者達が持っていた道具に、ジャスが言った魔法陣は組み込まれていない。

既に、組み込んだ魔法陣の種類がわからない状態か。

手遅れだな。

「お前が作ったのは、若い冒険者を殺す魔法陣だ。魔物を狂わせる道具を、森にばらまかせたのもお前だな」

「違う。あれは、人を守るための魔法陣だ」

ジャスはバンバンと机を叩く。

「魔法陣に魅入られた者は、すぐに狂う者と、ゆっくり狂う者がいる。お前は後者だったんだな」

後者の場合は、周りにばれないよう動くため気付くのが遅れる。

ただ、魅入られた時間が長くなると、ジャスのように言動も思考もおかしくなるが。

「俺は狂っていない。どうしてわからないんだ? 魔法陣こそ、人を守るのに役立つものだというのに!」

俺の言葉に、ジャスは嫌そうな表情を見せる。

「魔法陣が人を守る? 人の住む世界を奪う、の間違いだろう」

「違う! 魔法陣を使いこなせば、全てを手に入れられる。はっ、もしかして魔法陣が怖いのか?」

ジャスが、馬鹿にした様子で俺を見る。

俺は、ジャスを見て溜め息を吐く。

「あぁ、俺は魔法陣が怖いよ」

俺の言葉に、研究員達が視線を向けた。

「教会の連中は、マーチュ村の傍で大量の魔法陣を発動させた。その結果、何が起こったのかお前は知っているだろう。忘れたのか?」

俺の問いに、ジャスは鼻で笑う。

「あれは、魔法陣の扱い方が間違っていたからだ」

「違う。魔法陣を発動させるために、世界から魔力を奪ったからだ。最も多くの魔法陣を発動させたオカンノ村とその周辺は今、草も木も枯れ、近くの川も干上がっている。調べた結果、あの場所は当分、草木は育たないという事だ」

オカンノ村は、村のあちこちに魔法陣が描かれていたので、燃やす事になった。

魔法陣を探している奴らを欺くために、様子見に来ていた者達の前でオカンノ村の一部を燃やしたらしいが、オカンノ村は広く、全てを安全に燃やし切るのに2週間以上は必要だと考えられた。

でも、我々がオカンノ村を燃やす日は来なかった。

オカンノ村が、ある日、崩れ落ちたからだ。

そして、その日からオカンノ村を中心に草木が枯れ、川が干上がり、土壌から魔力が消えた。

世界から魔力を奪う事が何を引き起こすのか、俺は崩れ落ちた村と草が1本もない広大な大地を見て理解した。

「あの時、王都の周辺でも魔法陣が同時に数個発動した。そのせいで、森の一部分で草木が枯れた。魔法陣は生きる者から住める場所を奪うものだ」

「だからそれは、魔法陣の扱い方が間違っていたからだ! 俺だったら、うまく出来る。そうだ、魔物を操る魔法陣だって完成している」

「冒険者を殺す魔法陣を作っただけだろう」

研究員の一人がジャスを見る。

ジャスは、作業机にあった小さな魔石を研究員に向かって投げた。

「黙れ!」

ジャスの行動に小さく息を吐き出すと、第三研究室の扉を見る。

そこには、3人の騎士団員がいた。

「お願いします」

「はい」

俺が小さく頭を下げると、2人の騎士団員がジャスに近付く。

ジャスはそれに気付くと、胸元から何かを取り出して、にやりと笑った。

「ジャス、やめろ」

まさか、魔法陣か?

「俺から魔法陣を奪わせない!」

ジャスが胸元から取り出したものを作業机に叩きつける。

その瞬間、大きな魔力の揺れを感じた。

これは、やばい!

「ふす~」

何処からか現れた黒のスライムが、ジャスの手を包み込む。

「えっ?」

ジャスが戸惑った様子を見せると、2人の騎士団員は、急いで彼に奴隷の輪を付けた。

「あっ、やめっ」

「ぷす~」

黒のスライムがジャスの手から離れると、満足そうな顔をする。

ジャスは手の中を見て、絶望の表情を浮かべた。

「お、俺の魔法陣が……こんな……」

ジャスが黒のスライムに向かって手を振り上げる。

「ふすっ」

その手を軽々と避ける黒のスライムは、ジャスに背を向けるとプルプルと震えた。

「くそっ」

ジャスがもう一度黒のスライムに手を振り上げる。

黒のスライムは、余裕で避け、プルプル揺れた。

「あれ、揶揄っていませんか?」

チェッキーの言葉に、俺は小さく笑って頷く。

「くっそ~」

ジャスは何度も黒のスライムに向かって手を振り上げる。

そのたびに、黒のスライムは軽々と避け、プルプルと震えた。

「あっ」

第三研究室の隣の実験室から出てきた研究員が黒のスライムを見て、バツの悪そうな表情をした。

「ふす~」

黒のスライムは、少し怒ったように鳴くと、彼の顔面めがけて飛び跳ねる。

「待て、ごめん。お昼だな。うん。食べるから。食べるから」

この研究員も、黒のスライムに世話をしてもらっているのか。

そういえば、お昼の時間だったな。

「やめろ。離せ」

2人の騎士団員が、ジャスの両腕をそれぞれ掴む。

「ジャス、気付いてやれなくてごめんな」

チェッキーはそう言うと、ジャスに頭を下げた。

ジャスはチェッキーを見る事なく、引きずられるように出て行った。

「あの、これを」

第三研究室を覗いていた研究員が、俺の元に来ると、書類を差し出した。

確認すると、テイムした魔物をおかしくした魔法陣の調査結果だった。

「何がしたかったのかわかったか?」

「おそらくですが、使われた文字と絵柄から、魔物を洗脳したかったのだと思います。ただ、文字の順番が変ですけど」

「わかった。お疲れ様、ありがとう」

俺がお礼を言うと、研究員は恥ずかしそうに笑って、自分の席に戻った。

「チェッキー、行こうか」

「はい。みんな、今日はもう終わり。家族や恋人の元に帰ってゆっくりしましょう」

チェッキーの言葉に、研究員達がうれしそうに笑って頷いた。

第三研究室を出ると、チェッキーが表情を暗くした。

「気にするなよ」

「はい。いえ、やはり気になります。どうして気付けなかったのかと」

俺の言葉に、チェッキーは首を横に振る。

魔法陣第二研究所を出ると、俺は空を見上げた。

抜けるような青空に、少し気分が浮上する。

「チェッキーも、家族の元へ帰れ」

「はい。そうします」

チェッキーと別れて、魔法陣第一研究所に戻ろうとした瞬間、大きな魔力の揺れを全身で感じた。

振り返ると、チェッキーも感じたのだろう、不安そうな表情で俺を見ていた。

「今の、魔法陣の発動ですよね?」

魔法陣を研究していて、気付いたら世界から魔力を奪う時に起こる揺れを感じられるようになった。

チェッキーも感じられる1人だ。

「あぁ、しかも、かなり大きな揺れだったから、魔法陣は大きいだろう」

フォロンダ公爵にすぐに伝えなければならない。

何事も起きなければいいが。

「最弱テイマー」を読んで頂きありがとうございます。

本日で「王都と冒険者」の章が完結いたします。

すみません、次の章に入るまで少し更新をお休みします。

なるべく早く再開出来るように頑張りますので、次の章もどうぞよろしくお願いいたします。

ほのぼのる500