1132話 フォロンダ公爵と未来視からの手紙
1132話 フォロンダ公爵と未来視からの手紙
―フォロンダ公爵視点―
ルーダたちの治療経過の報告書を読むと、ホッと息を吐く。
「みんな、後遺症もないみたいだ」
「良かったですね」
俺の呟きに、アマリもホッとした表情をした。
「そうだな」
コンコンコン。
「スイナスです」
「どうぞ」
アマリが入室の許可すると、大量の書類を持ったスイナスが部屋に入ってくる。
俺はその書類の量を見て、大きく溜め息を吐く。
「お茶を淹れますね」
アマリは俺の様子を見て小さく笑い、お茶の用意を始めた。
「それは?」
「あちこちからの報告書です。俺がここに来ると分かると『頼む、持っていてくれ』と複数人から声を掛けられました」
「それを全て受け取って来たのか?」
俺の言葉に、スイナスは当然とばかりに頷く。
「どうせ受け取るのですから、俺が受け取っても問題ないでしょう?」
スイナスが不思議そうに首を傾げるので、俺は頷く。
「そうだけど、受け取る時にちょっと言いたい事もあるだろう。締め切りを過ぎてから持ってくる奴らにとかさ」
俺の言葉に、スイナスはちらっと書類を見ると、納得した様子で笑った。
「だから、俺に持って行かせようと必死だったんですね」
「どういう事だ?」
「一番上の書類ですが、2週間前までに提出しなければならない書類だったようです」
「はぁ、その書類は経理課からだろう」
あそこは書類の提出がとにかく遅いんだ。
お金を扱うところだから大変なのはわかるんだけど、どうにかならないものか。
スイナスが俺の執務机に書類を載せる。
俺は一番上の書類を流し読みし、長い溜め息を吐いた。
「スイナス。書類をありがとう」
俺のお礼に、スイナスが小さく頷く。
「スイナスは、何か用事があったのか?」
「そうでした。俺は手紙を届けに来ました」
スイナスが懐から出した手紙を、俺に差し出す。
「ありがとう」
手紙を受け取り、差出人を確認する。
「未来視のルトからだ」
俺の呟きに、アマリが俺に視線を向ける。
俺は手紙の封を切ると、中の手紙を取り出した。
手紙の最初には「この手紙が届く頃には、既に私は亡くなっています」と書かれていた。
俺は、小さく息を吐き出し、アマリを見る。
「ルトが亡くなったようだ。これは、彼女からの最後の手紙だ」
「そうですか。あとで、お花を届けておきますね」
「頼む」
ルト以外の未来視たちと俺は関わっていないので、関わりのあるアマリに任せる。
もう一度手紙を読むと、感謝と、未来視たちの事をお願いする内容が書かれていた。
未来視たちは今、俺と関わるかどうか話し合っているそうだ。
そして、未来視たちが見ている未来についても書かれていた。
「未来が不安定とある」
「不安定ですか?」
俺の呟きに、スイナスが首を傾げる。
「あぁ、未来視の見る未来が、頻繁に変わるそうだ。今までにそんな事はなかった為、何か起こる可能性があるかもしれないと書いてある」
「捨てられた大地の事でしょうか?」
アマリの言葉に、俺は頷く。
「そうだ。一つは木の魔物が王都を壊滅させる未来。一つは大量の魔物が王都に流れ込む未来。壊滅とまでは書かれていないが、大量の魔物が流れ込めば、無事では済まないだろう。他には、半壊している王都を見た未来視もいるみたいだ。あと、王都の周辺の森が燃えている未来。それと、忽然と王都が消える未来を見た者もいるらしい」
忽然と王都が消える?
まさか、魔法陣か?
でも王都を消すほどの魔法陣となると、どれだけ大きな魔法陣なんだ?
「どの未来も最悪なんですが、いい未来を見た者はいないのですか?」
スイナスの問いに、俺は手紙の続きを読む。
「大丈夫だ。王都で祭りが行われている未来を見た未来視もいる。怪我を負っている冒険者たちが、笑っている未来を見た者もいるそうだ」
怪我を負っているのに笑っているという事は、王都を守り切ったからか?
「んっ?」
これは、俺の未来か?
「どうしたんですか?」
俺の様子に気付いたアマリが、お茶を執務机に置きながら、俺に声を掛ける。
「俺の未来を見た者がいるそうだ。俺が『もっと早く、決断していれば』と言いながら泣いていたそうだ」
もっと早く決断をしていれば?
何を決断するんだ?
「主は決断が早い方ですよね? それなのに、もっと早くですか?」
アマリの不思議そうな表情に、俺は頷く。
俺はお茶を手に取ると、ゆっくりと飲む。
泣いているという事は、後悔しているのだろう。
もっと早く決断していれば、何かが変わった?
ルトからの手紙を見る。
もしかして、俺が早く決断する事で、未来が少しはいい方向へ変わるのか?
そういえば、今、迷っている事があったな。
魔法陣研究所は、第一から第四まであって、研究結果などは共有されていない。
それは、研究員を守る為だ。
魔法陣の情報が多ければ多いほど、魅入られる者が増えるとわかったから。
でも、クース主任から、ほかの研究所の調査結果を共有したいという要望があった。
俺は、何処まで情報を共有しようか迷っていたのだが……。
捨てられた大地は今、魔法陣による大きな変化が起こっている。
研究結果の情報を共有する事で解決策が見つけられるなら……でも、魅入られる者が出てしまったら……。
「大丈夫ですか?」
アマリの心配そうな声に、視線を向ける。
「大丈夫だ」
そうだ、一人で考えてもいい結果は出ない。
魔法陣の事なら、専門家に話を聞くべきだな。
「魔法陣研究所のクース主任を呼んでくれ」
俺の急な言葉に、アマリは少し驚いた表情を見せたが、すぐに頷いた。
「わかりました」
アマリが部屋から出て行くと、ソファに座ってお茶を飲んでいるスイナスが俺を見る。
「いつの間に……」
ゆっくりしていいと、許可を出してはいないのだけど。
「疲れたのでちょっと休憩です。それより、何か決めたのですか?」
スイナスの問いに、俺が首を横に振る。
「俺だけでは判断出来ないから、専門家に相談する事にした」
俺がそう言うと、スイナスが目を見開く。
「なんだ?」
「いえ、何でもありません」
俺が、誰かに相談すると言ったから、驚いたんだろうな。
これまでは、何でも自分だけで答えを出してきた。
親しくしている相手は信用していたが、ただいつも「もしも、目の前の者が裏切っていたら」と考えてしまっていた。
そのせいで、誰かに相談する事は、いつからか出来なくなったんだったな。
ルトからの手紙を見る。
そういえば、最後の一枚をまだ読んでいなかったな。
ルトからの最後の一枚を読む。
そこには、木の魔物に乗った幼い子供たちが、笑いながら森を突き進む未来を見た未来視について書かれていた。
「んっ? どういう事だ?」
俺の小さな呟きに、スイナスが視線を向ける。
「何が書いてあったんですか?」
俺はスイナスに、手紙の内容をそのまま伝える。
「それは、王都が残ったあとのもっと先の未来でしょうか?」
「そうかもしれないが、未来視は、どうしてこの未来を見たんだろうな?」
俺が首を傾げると、スイナスも困惑した表情で首を傾げた。
「でも、そんな未来があるかもしれないと思うと、やる気が出ますよね。絶対に守らなければって」
スイナスの言葉に、俺は笑って頷く。
「そうだな」
まだ、王都が壊滅したわけではない。
そしてルトは、俺にヒントをくれた。
「絶対に、王都とここに住む者たちを守らなければな」