1134話 はやく、ちょうだい
1134話 はやく、ちょうだい
「ただいま帰りました」
フォロンダ公爵の屋敷に戻ると、奥にいる筈のドールさんとフォリーさんに声を掛ける。
「おかえりなさいませ。怪我などしておりませんか?」
ドールさんが心配そうに私とお父さんを見る。
「大丈夫です。今日も問題なく依頼を終わらせました」
私がうれしそうに言うと、ドールさんは微笑んだ。
「そういえば、アマリさんからマジックバッグが届いております。中身が何かわかりますか?」
ドールさんが、玄関の横に置いてある6個のマジックバッグを見る。
「いいえ、何も聞いていませんが……もしかしたら、劣化版のポーションかもしれません。ソラ達のポーションをお願いされていたので」
お父さんがマジックバッグに近付くと、ソラとフレムがうれしそうに後を追う。
「お父さん、後ろを見て」
「んっ?」
お父さんが振り返ると、追って来ていたソラとフレムに気付き笑った。
「まだ劣化版のポーションだと決まったわけじゃないぞ。まぁ、間違いないだろうけど」
「では、いつもの部屋に持って行きましょうか?」
ドールさんの言葉に、お父さんは頷いて、マジックバッグを4個持った。
「残りをお願いします」
「はい、わかりました」
ドールさんが残っている2個のマジックバッグを持つと、お父さんの後に続いた。
あっ、私の分がないじゃない。
「お父さん、私も持つよ」
「部屋はすぐそこだから大丈夫だ。ただ、扉を開けられないから、開けてくれ」
「わかった」
少し前にフォリーさんが、ソラ達の食事部屋を作ってくれた。
あの日から、アマリさんやスイナスさんが持ってきてくれるゴミの入ったマジックバッグは、全てその部屋に置かれている。
「5日前にスイナスさんがマジックバッグを持ってきましたよね? もしかして既に食べきったのでしょうか?」
部屋に向かっていると、ドールさんが首を傾げる。
「いえ、前に持ってきてくれた物はまだあります。さすがにあの量を5日間では食べさせませんよ。それに、今回はほとんどポーションでしょう」
「そうですか。もしかしたら、ポーションが必要なのは、捨てられた大地のせいかもしれませんね」
ドールさんの言葉に、お父さんが彼を見る。
「捨てられた大地に何かあったんですか?」
「少し、噂がありまして」
「噂ですか?」
「はい、聞いた事がありませんか?」
「はい。知りません」
お父さんの返事に、ドールさんは少し考え込む。
「情報が厳しく制限されているようです」
ドールさんの呟きに、お父さんが険しい表情をした。
ゴミの入ったマジックバッグを置いている部屋に入ると、ソラ達がうれしそうに部屋中を跳びはねる。
「まだご飯の時間ではないよ」
「ぷ~」
「てりゅ~」
「ぺふ~」
私の言葉に、不満げにソラ達が鳴く。
ソラは、私に背を向けると、お父さんが床に置いたマジックバッグに向かって跳んだ。
「ぷっぷぷ~、ぷっぷぷ~」
マジックバッグを開けて欲しいというように、何度もマジックバッグの上でソラが跳びはねる。
「ソラ、落ち着いて」
お父さんがソラを抱き上げると、ドールさんに視線を向けた。
「ドールさんは、捨てられた大地で何が起こっているかわかりますか?」
お父さんがドールさんに聞くと、彼は首を横に振る。
「あの場所では、何が起こってもおかしくありません。一番考えられるのは、魔法陣の発動。次に、戦時中に作られた大量のマジックアイテムの影響を受けた魔物の暴走。あと、マジックアイテムの誤作動も考えられますね」
「マジックアイテムの誤作動ですか?」
私の問いに、ドールさんは神妙に頷く。
「捨てられた大地に放置されたマジックアイテムは、戦時中に人の手によって作られた物です。それが長い間放置された事で一部が劣化して壊れ、急に動き出したり爆発したりするのです」
「そうなんですか」
マジックアイテムを人が作った時代か。
すごい技術があるのに、どうして戦争なんてしたんだろう?
「ぷ~」
考え込むお父さんの腕の中で、ソラが不満げに大声を上げる。
「うわっ」
ソラの大きな鳴き声に驚いたお父さんは、小さな声を漏らしてソラを見た。
「どうしたんだ?」
「ぷ~」
重低音で鳴くソラは、先ほど部屋に運んできたマジックバッグに視線を向ける。
「ははっ、わかった。ちょっと待ってろ」
お父さんは、ソラの視線の先を見て笑うと、ソラを床に置いて、マジックバッグに手を伸ばした。
「ドルイドさん。マジックバッグに番号が書かれていますね」
ドールさんがマジックバッグの一部を指して、お父さんを見る。
お父さんは、ドールさんの視線の先を見ると、別のマジックバッグに視線を向けた。
「本当だ。これは2番目。1番目は……ドールさんが持ってきてくれたマジックバッグみたいですね」
「これですね。開けますね」
ドールさんはマジックバッグを開けると、中から手紙を取り出した。
そして宛名を確認したのか頷くと、お父さんに渡した。
「アマリからです。どうぞ」
「ありがとう」
手紙を受け取ったお父さんは、内容を確かめると微笑んだ。
「フォロンダ公爵は、用意した劣化版ポーションをアイビーに渡していいのか迷っていたみたいだ」
お父さんの説明に、私は首を傾げる。
「どうして迷ったんだろう?」
「ぷ~?」
「てりゅ~?」
「ぺふ~?」
ソラ達も不思議そうに、体を傾けている。
「ポーションを、ソラ達が連日作っている事をアマリさんに聞いて『悪い事をしてしまった』と呟いていたそうだ」
悪い事?
「ソラ達が無理してポーションを作っていると思っているのかな?」
私がソラ達を見ると、ソラ達は不思議そうな表情をしている。
「ソラ達がポーションを作っている時の状態を知らなければ、そう思うかもしれません」
ドールさんの説明に、お父さんが小さく頷く。
「そうだな。ソラ達の状態を知らなければ、そう考えてもおかしくないだろう」
ソラ達が無理をしてポーションを作っている、か。
まったく、そんな感じではないんだけど。
「ぷっ! しゅわ~、しゅわ~」
「てりゅっ! しゅわ~、しゅわ~」
「ぺふっ! ぐしゃ、ぐしゃ、しゅわ~、しゅわ~」
「えっ?」
急に聞こえてきた音に、慌ててソラ達を見る。
3匹は、マジックバッグからポーションやマジックアイテムを取り出すと、自由に食べ始めていた。
「どうやってマジックバッグを開けたんだ?」
お父さんの小さな呟きに、ソルが触手を楽しげに揺らす。
「もしかして、マジックバッグを自由に開けられるようになったの?」
「ぺふっ」
私の問いに、胸を張るソル。
「ソルは前から、マジックバッグを開けていませんでしたか?」
ドールさんが不思議そうな表情で私を見る。
「しっかり閉まっているマジックバッグは、これまでは開けられなかったんです」
「そうだったのですか。つまり、進化したという事でしょうか?」
「進化、なのか?」
お父さんが首を傾げソルを見ると、ソルは別のマジックバッグを触手で開け、中から大きなマジックアイテムを取り出していた。
「この部屋に鍵を付けないと、食べ放題になるんじゃないか?」
お父さんの呟きに、ドールさんは静かに頷き、扉に視線を向けた。
「すぐに付けておきます」