1135話 大量のポーションと真ん丸
1135話 大量のポーションと真ん丸
「これは、また……」
目の前に並ぶ青と赤のポーションの量を見て、スイナスさんが戸惑った表情を浮かべる。
「すごい量だな」
久しぶりに顔を見せてくれたジナルさんが、並べられたポーションを見て呟く。
「もしかして、無理をさせてしまったのでしょうか?」
スイナスさんが申し訳なさそうな表情で私を見る。
私は、そんなスイナスさんに笑って首を横に振った。
「大丈夫です。無理はさせていませんから」
「そうなんですか? でも、この量はいったい……」
「青のポーションが88本。赤のポーションが87本だ。何とかここで終わらせたんだ」
お父さんが説明すると、スイナスさんとジナルさんが不思議そうな表情をする。
「はぁ、俺がまぁ……余計な事を言ってしまったんだと思う」
お父さんの言葉に、私は思わず笑ってしまう。
「余計な事? 何を言ったんだ?」
ジナルさんの問いに、お父さんが少し疲れた表情をする。
「ソラもフレムも、1日5本のポーションを作ってくれていたんだけど、その量だと少ないみたいで不満そうだったんだ。だから1回、限界まで作らせてみるのもいいって言ったんだよ」
「それで限界まで作ってもらったのか?」
お父さんの説明にジナルさんが納得した表情をする。
「いや、違う。俺の言葉を聞いて、あまりにうれしそうにするから、危険を感じて止めた。それが不満だったんだろうな。ポーションを作り始めたら止めても止まらなかった。でも何とかその数だけで止めさせた」
お父さんの疲れた表情に、ジナルさんとスイナスさんが笑い出す。
「ポーションをお願いしたこちらとしては、この量は本当に助かります」
スイナスさんの言葉に、お父さんが真剣な表情をする。
「それは、捨てられた大地に異変が起こっているからか?」
スイナスさんはお父さんの問いに、少し考えると頷いた。
「ドルイドさんとアイビーさんには、話をしても問題ないでしょう。その通りです」
「本当だったんだ」
スイナスさんの返事に、私は思わず呟いてしまう。
「はい。少し前に、捨てられた大地の奥、また我々が調べていない場所にある魔法陣が発動したようなんです。そして、その周辺にいた魔物に異変が起こっていると報告がありました」
スイナスさんの説明に、お父さんの眉間に皺が寄る。
やっぱり魔法陣だったんだ。
それにしても魔物に異変って何が起こっているんだろう。
木の魔物にも影響を与えているのかな?
「どんな魔法陣が発動したのかわかっているのか?」
「いえ、わかっていません。ですが、魔物に影響を与えている可能性が高いです。ここ数日ですが、捨てられた大地からあふれる魔物の数が増えています。捨てられた大地とこちら側との境界に結界があるのですが、暴走した魔物は結界を無理やり突破してくるんです」
スイナスさんの話にジナルさんが溜め息を吐く。
「捨てられた大地に派遣された冒険者達だけでは、対応出来なくなる日も近いんじゃないか?」
ジナルさんがスイナスさんを見る。
「はい。冒険者ギルドには既に話しているようですので、近々、冒険者たちに募集が掛かると思います」
「そうか」
ジナルさんがお父さんを見る。
「ドルイド、アイビーがいるんだから無理はするなよ」
お父さんはジナルさんを見て肩を竦める。
「俺は無理をしないけど……」
お父さんの視線が私に向く。
私は、お父さんの視線を受けて、小さく笑った。
「捨てられた大地へ行くために頑張っているんだから、いずれ無理をする事になると思うよ」
「その予定は変わらないのか」
ジナルさんが少し困った表情で呟く。
スイナスさんも、どことなく困った表情をしている。
「うん、変わらないよ。私は、王都を襲う木の魔物の姿なんて見たくないから」
優しい木の魔物が人を襲うなんて悲しすぎる。
「木の魔物」
スイナスさんの呟きに、私は視線を向ける。
「どうしたんだ」
ジナルさんも気になったのか、スイナスさんに声を掛けた。
「未来視から主に手紙が届いたんです」
「手紙? 内容は?」
ジナルさんの質問に、スイナスさんは私を見る。
「木の魔物が王都を壊滅させる未来。大量の魔物が王都に流れ込む未来。半壊している王都を見た未来視もいるようです」
スイナスさんの話に、ジナルさんもお父さんも黙り込む。
「それは……どの未来も、最悪の状況だな」
ジナルさんがそう言うと、スイナスさんがハッとした表情をした。
「すみません。王都で祭りが行われている未来もあったようです」
スイナスさんの話に、ジナルさんとお父さんがホッとした表情をした。
「良かった。最悪の未来しかないのかと思った」
お父さんが言うと、ジナルさんも笑って頷く。
「俺も一瞬、そう思った。明るい未来があるなら、そちらになるよう頑張るだけだ」
お父さんとジナルさんを見て、私はギュッと手を握る。
最悪な未来のほうが多いのに、頑張ったら未来は明るいと思えるのはすごいな。
「あの、アイビーさん」
「はい?」
スイナスさんを見ると、私の周りを見回していた。
「ソラ達ですか?」
「はい。今日は姿を見ませんが、たくさんポーションを作ったせいでしょうか?」
「「……」」
スイナスさんの問いに、お父さんと私は顔を見合わせる。
「えっと、寝ています」
「やはり疲れているからですか? 主には、当分の間はポーションづくりが出来ないと伝えておきます」
私の返事に、スイナスさんが申し訳なさそうな表情をする。
「いえ、大丈夫です。疲れなんて全くないと思うので……」
私の言葉に、スイナスさんが不思議そうな表情を浮かべる。
「アイビー、見てもらったほうが早いと思うぞ」
お父さんの言葉に、私は頷く。
「そうだね。こっちです」
私は、ソラ達が休憩している庭に、スイナスさん達を案内する。
そして、シエルのお腹に埋もれて眠っているソラ達を見せた。
「えっ?」
「ぷっ」
スイナスさんはソラ達の姿に小さな声を上げ、ジナルさんは噴き出した。
「丸いな」
ジナルさんが、小さく笑いながら言う。
「ソラ達にとってあの量のポーションを作る事は、負担にならないみたいだ。それよりポーションを大量に食べたからな。見事、真ん丸になった。あぁ、そうだ。昨日、届いたポーションは、あとマジックバッグ1個分しか残っていないから」
お父さんの話を聞いたスイナスさんは、驚きに目を見開く。
「えっ、あの量をですか?」
「そう。ソルがしっかり閉まっているマジックバッグを開けられるようになったから、扉に鍵を付ける事にしたんだ。でも、ドールさんに用事が出来て、少し鍵を付ける時間が遅くなった。そうしたら、そのすきに部屋に入り込んで、みんなで食べ放題をしたようだ」
そう、姿が見えないと思って探したら、ソラ達の食事をする部屋から音が聞こえて慌てたんだよね。
そして、部屋の中に入ると、みんなが真ん丸になっていた。
「ぷぷ~」
私たちの声が聞こえたのか、ソラが起きた。
そして、うれしそうに鳴くと、私たちのほうへ跳びはねてきた。
ボン、コロコロコロ。
「ぷ~、ぷ~?」
残念な事に、跳びはねたところまでは良かったけど、着地で失敗し、そのまま私たちのほうへ転がる。
ソラは何が起こったのかわからなかったのか、転がりながら不思議そうに鳴いている。
「ぷっ、あはははは」
ジナルさんの笑い声が庭に響き渡る。
「ぷ~!」
転がりながら怒るソラに、ジナルさんが笑い続ける。
「ぷ~!」
ソラは怒りながら転がり、最後は私の足にぶつかってようやく止まった。
「ソラ、大丈夫?」
私がソラを抱き上げると、ソラは私の腕の中からジナルさんをジトっと見つめる。
「悪い、ソラ。あまりに可愛い姿に笑いが止まらなかった」