1136話 久しぶりに、ちょっとのんびり
1136話 久しぶりに、ちょっとのんびり
ジナルさんは笑いが収まると、ソラの頭をポンと撫でた。
「ソラ、ポーションをありがとう。助かるよ」
ジナルさんのお礼の言葉を聞いたソラは、お父さんのほうを見て自慢げな表情をする。
「褒められても、体型が変わるまで食べ過ぎるのは駄目だ」
「ぷ~」
お父さんの言葉に、ソラは不満げに鳴く。
「そういえば、青の透明なスライムがオカンコ村で見つかったそうです」
私は、スイナスさんに視線を向ける。
「そうなんですか?」
「はい。あ~……」
スイナスさんはなぜか言いよどむと、少し困った表情をした。
「あまりにも個性的なスライムのようで、テイムしたテイマーが振り回されていると聞きました」
「あぁ、なるほど。ソラみたいなのか」
ジナルさんが、スイナスさんの説明を聞くと、ソラを見て頷く。
「ぷ~」
ソラは、ジナルさんの態度に不満な鳴き声を上げる。
「私は、ソラに振り回されたりしていないよ」
「ぷっぷぷ~」
私の言葉に、ソラがうれしそうに鳴く。
「能力は?」
お父さんが真剣な表情で、スイナスさんに聞く。
「ソラのように、ポーションをビンごと消化するようです。剣については報告がなかったので、食べていないのでしょう」
「ソラも最初の頃は、ポーションだけだったよね」
「ぷっぷぷ~」
スイナスさんの話を聞きながら、私はソラの頭を撫でる。
いつ頃から、剣を食べ始めたんだったかな?
……あれ?
いつだっけ、思い出せないな。
「最初はソラもポーションだけだったんですか。それなら、オカンコ村の青のスライムも、いつか剣を食べ始めるかもしれませんね」
スイナスさんが納得した様子で頷くと、シエルのお腹に埋もれて寝ているフレムとソルを見る。
「赤の透明なスライムについては聞きませんが、黒のスライムは各地で見つかっています。王都内でも、なぜか見つかっていますよね」
「勝手に王都内に入ってくるスライムは、問題だと思うんだけどな」
スイナスさんの説明に、ジナルさんが少し困った表情をする。
「でも、問題が起きたという報告はありませんからね。それに、何処から入ってきているのか、探しても見つからないんですよ」
ジナルさんの呟きに、スイナスさんが苦笑する。
スライムが問題?
そうだ、スライムって、ソラ達の印象が強くて忘れがちだけど、人を見たら襲ってくる魔物だった。
「そういえばスライムは、人を襲う魔物だったな」
お父さんの呟きに、スイナスさんとジナルさんが視線を向ける。
「ドルイドが、それを忘れている事に驚きだ」
ジナルさんの言葉に、お父さんが肩を竦める。
「ソラ達の印象が強すぎて忘れていた」
お父さんの説明に、ジナルさんが納得した様子で頷く。
「確かにそうですね」
スイナスさんも小さな声で呟くと、ソラを見た。
「失礼いたします」
ドールさんが庭に顔を出すと、ジナルさんとスイナスさんを見る。
「お茶でもいかがですか?」
「いえ、結構です。すぐに戻らないといけませんので」
スイナスさんが断ると、ドールさんが少し大きめのカゴを、スイナスさんに差し出した。
「では、こちらをお持ちください。軽食と甘味が入っております。忙しくても、しっかり食べないといけませんよ」
「ありがとうございます」
スイナスさんはうれしそうにドールさんからカゴを受け取ると、お父さんと私を見た。
「ポーション、ありがとうございました。そろそろ仕事に戻ります」
「忙しいんですか」
「はい、捨てられた大地の異変に気付いた一部の貴族が、『フォロンダ公爵の管理が甘いせいだ』とか『調査を任されている冒険者が防げなかったのか』と騒ぐんです。そいつらを黙らせる為の情報を握る必要があるので、駆け回っています」
お父さんの質問に、スイナスさんがうんざりした表情で言う。
「少し前に大規模な粛清が行われたのに、凝りてないよな」
ジナルさんは呆れた様子で呟くと、スイナスさんの肩をポンと叩いた。
「何か手伝える事があったら言ってくれ」
「ありがとうございます」
スイナスさんはそう言うと、大量のポーションをマジックバッグに入れて、帰って行った。
「ジナルはスイナスと一緒に来たわけではなかったのか?」
ジナルさんを見て、お父さんが不思議そうに聞く。
「あぁ、違うよ。スイナスとは偶然一緒になっただけだ。俺は久しぶりにアイビーに会いたくなっただけだ」
「そうか。お茶でも飲むか?」
お父さんの問いに、ジナルさんはドールさんを見る。
「お願いできますか?」
「大丈夫です。すぐにご用意いたします」
ドールさんが準備の為に建物内に入ると、私たちは庭に設置されている椅子に座った。
「アイビー、最近は冒険者として活躍しているみたいだな。すごいな」
ジナルさんの言葉に、私はちょっと恥ずかしい気持ちになる。
「ありがとう。シエル達が頑張ってくれているお陰なの」
私だけだったら、ここまで依頼はこなせないと思う。
ドールさんがお茶と甘味を持ってくると、私たちが座っている椅子の傍に簡易テーブルを組み立て、そこに置いた。
「では、ごゆっくりどうぞ」
ドールさんがいなくなると、ジナルさんがゆっくりとお茶を飲む。
「そう言えば、今日の依頼は?」
「朝から行ってきた。でも今日はすぐに終わったから、お昼からはのんびりしていたんだ」
お父さんの説明に、私は頷く。
今日の依頼はとても簡単だったんだよね。
王都のすぐ傍まで来てしまった2匹の魔物の討伐だったから。
「そうか。どんな依頼だったんだ?」
ジナルさんが私を見る。
「依頼は、王都のすぐ傍まで来ていた2匹の魔物の討伐。私たちに向かって殺気を放っていたから、矢も狙いどおりに撃てて、問題なく討伐できたよ」
私の説明に、ジナルさんが微笑む。
「弓の実力も上がっていると、シファルから聞いているよ」
私は、ジナルさんを見つめる。
「まだまだだよ。殺気がないと、矢が大きく外れてしまう事があるから……」
殺気を向けられると、狙った場所に矢が必ず刺さるようになった。
毎日の特訓の成果か、筋力も上がり、最近は矢が深く刺さるようにもなった。
でも、殺気がないと、まだまだ不安定で、矢が狙いから大きく外れてしまう事もある。
「焦らず、ゆっくり上達すればいいよ」
ジナルさんの言葉に、私は少し考えて首を横に振る。
「捨てられた大地へ行くには、早く上達しておかないと駄目だと思う。だから、ゆっくりしている時間はないかな」
私の話を聞いていたジナルさんは、私を心配そうに見る。
「無理は駄目だぞ」
ジナルさんの言葉に、私は思わず微笑む。
「うん、わかってる。ありがとう」
ジナルさんは、しばらく王都内での情報をお父さんに伝えると、夜に仕事があるらしく帰って行った。
「「「「ただいま」」」」
お父さんと一緒に夕飯を食べていると、食堂にランカさん達が入って来た。
「「おかえり」」
ランカさん達は、席に着くと、ドールさんに夕飯の準備を頼む。
ドールさんは、すぐに準備を終えると、それぞれの前に料理を並べた。
「「「「いただきます」」」」
すごい勢いで夕飯をかき込むランカさん達を見て、私は持っていたフォークを握ったまま、ランカさん達を見つめる。
「お昼を食べていないのか?」
お父さんが不思議そうな表情でランカさん達に聞く。
「そうなのよ。今日の依頼は、縄張りから出て戻らなくなった魔物の討伐だったんだけど、逃げ足の速い魔物でね。縄張りのほうへ逃げて行ったら様子見でいいと言われたんだけど、王都のほうに逃げるから追わなくちゃいけなくて。魔物は3匹いたんだけど、途中で別々に逃げるから3時間以上も探し回る事になったのよ。シファルのお陰で、魔物の脚を止められたから何とか討伐できたけど、今日はしんどかったわ」
ランカさんの説明に、シファルさん達が疲れた表情で頷く。
本当に大変だったみたい。
そういえば、足の速い魔物は、一度逃げると追うのが大変だと聞いた事があるな。
確か、走っている魔物の脚を弓で狙うんだったよね。
脚を怪我したら、どんな魔物でも速度が落ちるらしいから。
私は、まだ、足の速い魔物の討伐を受けた事がない。
お父さんが、受ける依頼を選んでくれているから、お父さんに「まだ無理だ」と思われているのかもしれないな。