1137話 魔法陣を組み込んだ防御アイテム
1137話 魔法陣を組み込んだ防御アイテム
冒険者ギルドに入ると、なぜか冒険者達があちこちで集まって話し込んでいた。
「どうしたんだろう」
いつもと違う冒険者達の様子に、私は首を傾げる。
「おかしいわね」
冒険者ギルドに一緒に来たランカさん達も不思議そうに、話し込んでいる冒険者達に視線を向けた。
「よっ、昨日はお疲れ様」
上位冒険者チーム「白花」のフイースさんが、ランカさんに声を掛けた。
今日はチームの仲間も一緒にいるので、鋭い視線を持つマルセさんもいる。
「フイースも昨日は大変だったんでしょう。大丈夫なの?」
「大丈夫よ」
ランカさんとフイースさんの会話に首を傾げる。
ランカさんが昨日、大変だったのは知っているけど、フイースさんには何があったんだろう?
「怪我は?」
「問題なし。ポーションで治ったわ」
ランカさんが心配そうにフイースさんの足を見ると、彼女は足を動かしながら笑った。
「そう、良かった。まさか、今日も依頼を受けるの? 昨日、大怪我をしたんだから休めばいいのに」
「俺もそう言ったんだがな」
ランカさんの言葉に、マルセさんがフイースさんを見て言う。
「大丈夫だって。もうマルセは心配性なんだから」
フイースさんが困った表情で言うと、彼女のチーム仲間達が首を横に振る。
「マルセが心配性になったのは、フイースが毎回無茶をするからだろう」
イールさんが呆れた表情で呟くと、隣りにいたダグさんが頷く。
男性冒険者の2人の言葉に、フイースさんと同じ女性冒険者のナッツさんが少し考え込む。
「フイースが、昨日の怪我くらいだと気にしないのが問題なのよね。結構な大怪我だったのに」
チーム仲間に呆れられた様子で話され、フイースさんが少し不貞腐れた表情をする。
「あれが大怪我だって事はわかっているわよ。でも、今日は元気だし」
フイースさんの呟きに、仲間の四人から溜め息がこぼれた。
「それより、何かあったの?」
仲間に溜め息を吐かれたフイースさんは、話題を変えるように、冒険者ギルド内を見渡す。
「私たちも、今、来たからわからないんだけど……悪い情報ではないみたいね」
楽しげに話している冒険者達を見ると、ランカさんが呟く。
「そうね。あの手に持っている物が原因かしら?」
ナッツさんの視線の先には、5㎝程の道具をマジックバッグにつけている女性冒険者がいた。
よく見ると、似た道具を持っている冒険者が多い。
「あれは、魔法陣を組み込んだ防御アイテムです。冒険者ギルドと商業ギルド、あと、冒険者ギルドから許可が下りた店だけで発売されるそうです」
魔法陣を組み込んだアイテム?
そんなものを、冒険者ギルドは売り出したの?
説明をしてくれた女性冒険者を見ると、彼女は貴族の豪邸前で襲われた時に駆けつけてくれたパパスさんだった。
「ラットルアさん、お久しぶりです」
「パパスも久しぶり。一人か?」
声を掛けられたラットルアさんが片手を上げて挨拶すると、パパスさんは頷く。
「はい。長期依頼で昨日王都に戻って来たばかりなんですよ。みんな疲れているので、1週間休む事にしました」
「そうか。パパスはどうして冒険者ギルドに?」
「報告書の提出です」
パパスさんが手に持っていた封筒を見せる。
「お疲れ様。で、魔法陣を組み込んだアイテムと言ったか?」
「はい。安全に使える魔法陣を使っているそうですよ。防御アイテムにはめ込んだ魔石の中の魔力だけを使うので、使用者の負担もないと説明を受けました」
魔石に込められた魔力だけを使う?
それなら、この世界に負担を掛ける事はないのか。
「魔石だけの魔力……」
シファルさんが小さな声で呟くと、カウンターへ視線を向ける。
「パパス、購入資格は?」
シファルさんが、パパスさんを見て聞く。
「冒険者や商人で、身元が確認出来る者です。あと、魔法陣を少しでも弄った場合は奴隷落ちです」
パパスさんの説明に、シファルさんが少し驚いた表情をした。
「奴隷落ちか……」
「魔法陣に興味を持つ者が多くなっているから、罪を重くしたんだな」
お父さんの呟きに、シファルさんが納得した様子で頷く。
「奴隷落ちだとわかれば、手を出さない者もいるでしょうからね」
ランカさんの言葉に、マルセさんが頷いた。
「パパスは防御アイテムを買ったみたいだな。ちょっと見せてくれないか? あと、防御アイテムの効果はどうなんだ?」
ヌーガさんの問いに、みんなの視線がパパスさんに向く。
「防御アイテムはこれです。上位魔物の攻撃を2回、完全に防ぐと聞きました。一番の売りは、不意打ちも防いでくれるそうです」
パパスさんは、マジックバッグから光沢のある防御アイテムを取り出すと、みんなに見せた。
防御アイテムは、5㎝程の正方形をしていて、中央に少し濁りがあるけど綺麗な魔石が埋め込まれている。
「不意打ちの攻撃を防いでくれるのは助かるわね。あの攻撃で亡くなる下位冒険者が多いから」
ランカさんの呟きに、マルセさんが頷く。
「これは下位冒険者と中位冒険者にとって必須アイテムだろう」
イールさんが、パパスさんの手にある道具をジッと見て呟く。
ナッツさんは興味深げに防御アイテムを見ると頷き、カウンターのほうを見る。
「まだ売っているかしら? 私もこれ、欲しいんだけど」
「まだ売っていると思いますけど、どうだろう?」
パパスさんは、カウンターのほうを見ると首を傾げる。
「まだ在庫はあるみたいね。私、ちょっと買ってくるわ」
ナッツさんがカウンターに行くのを見ていると、イールさんが「俺も」と言って彼女の後を追った。
「あいつらは……でも、俺も欲しいな」
マルセさんが呆れた様子で溜め息を吐くが、彼らの後を追うようにカウンターに向かった。
「アイビーは欲しい?」
お父さんの問いに、パパスさんが持っている防御アイテムを見る。
「形はまだこれだけみたいだけど、色は選べたよ」
パパスさんが持っている防御アイテムは、緑色をしていた。
色はそれほど気にならないけど、防御アイテムの効果はちょっと気になるな。
どうしよう。
「気になるなら買おうか」
お父さんが私の様子を見て言う。
それに少し考えたあと頷くと、お父さんと一緒にカウンターへ向かった。
「俺も行こう」
ラットルアさんが私の後に続くと、シファルさんとヌーガさんも来た。
最後まで迷っていたランカさんも、買う事にしたのか追ってきた。
「下位冒険者達に譲ったほうがいいのかもしれないけど、欲しい!」
後ろからランカさんの呟きが聞こえ、私は思わず小さく笑ってしまう。
「いらっしゃいませ、防御アイテムでよろしいですか?」
お父さんと私の順番になると、女性職員さんが笑顔で聞いてきた。
「はい。2個ですが、在庫は大丈夫ですか?」
「大丈夫です。上位冒険者が興味を持つ事はわかっていましたから、しっかり在庫は確保してあります」
上位冒険者が買う事も考えて、在庫を確保したって事かな。
冒険者ギルド内を見ると、確かに上位冒険者達のほうが防御アイテムを持っている気がする。
「さすがですね」
「はい。それに……」
女性職員さんが私たちに顔を近づけると、小声で話す。
「上位冒険者達に買っていただかないと、下位冒険者達に安く売れないんです」
女性職員さんの言葉に私は首を傾げるけど、お父さんは納得した様子を見せた。
「それだったら、上位冒険者達も気軽に買えますね」
「ふふっ。ドルイドさんだったら、そう言ってくれると思っていました。色は何色が良いですか?」
女性職員さんの言葉に、彼女の後ろに並べられている防御アイテムを見る。
色は茶色、黒、深緑、緑、青の5色から選べた。
「私は青でお願いします。お父さんは?」
「俺は茶色で」
お父さんは肩から下げているマジックバッグを見て、防御アイテムの色を選んだ。
あっ、防御アイテムはマジックバッグにつけるんだった。
私の茶色のマジックバッグに青は目立つかな?
でも、暗めの青だから大丈夫かな?
「わかりました。ではこちらでよろしいですか?」
カウンターに茶色と青の防御アイテムが並ぶ。
「はい。支払いは、ギルドカードでお願いします」
お父さんはそう言うと、お父さんのギルドカードを女性職員さんに渡した。
「私のも?」
「娘の安全を守るのは、父親の役目だから、これは絶対に譲らない」
お父さんの言葉に私は笑顔になる。
「ありがとう」