1138話 みんなで森へ
1138話 みんなで森へ
購入した防御アイテムを見る。
中央に埋め込まれた魔石は3㎝弱で、パパスさんが持っていた防御アイテムと同じくらいのレベルだった。
「全員、買ったんだな」
お父さんの呟きに、私はラットルアさん達を見る。
確かに全員が防御アイテムを手に、話をしていた。
「本当だね。そうだ、お父さん」
「どうした?」
お父さんが私を見る。
「さっき、女性職員さんが話していた『上位冒険者達に買っていただかないと、下位冒険者達に安く売れない』ってどういう事?」
私の質問にお父さんが防御アイテムを見る。
「防御アイテムの価格を、上位、中位、下位によって変えているんだよ」
「そうなの?」
「あぁ。上位冒険者が一番稼いでいるから高く、中位は本来の価格で。そして、冒険者になったばかりの者達でも買えるような価格で、下位冒険者達に売る。つまり上位冒険者が、下位冒険者を支えているんだ」
「なるほど」
防御アイテムは下位冒険者達には必須のアイテムだと思う。
でも、高額過ぎると、欲しくても買えない。
だから、下位冒険者が買える金額で売って、不足分は上位冒険者が補うって事か。
「こういう売り方はよくあるの?」
「多くはないが、時々あるな」
お父さんの説明に、私は頷く。
「アイビーも支えるほうだな」
「そうだね」
なんだろう。
役に立っているみたいで、うれしいかも。
「ドルイド、アイビー」
シファルさんの声に視線を向けると、依頼表が貼ってある掲示板を指した。
「まだ見ていないだろう? 一緒に行こうか」
「うん」
シファルさんと一緒に依頼表を確認しに行く。
「今日は、どんな依頼を受けるつもりだったんだ?」
シファルさんがお父さんを見る。
「特に決まってはいないが……」
お父さんは依頼表を見ながら呟く。
「ねぇ。久しぶりに、一緒の依頼を受けるのはどうかしら?」
ランカさんが、お父さんと私の傍に来る。
「気になる依頼でもあったのか?」
お父さんが不思議そうにランカさんを見る。
「森の奥から聞こえてくる音の調査よ」
森から聞こえてくる音を調べるの?
「音? そんな噂を聞いた事はないが、ランカ達はどうだ?」
お父さんの問いに、ランカさんとヌーガさんは首を横に振る。
ラットルアさんとシファルさんは少し考え込む。
「もしかしたら、森の奥から『キーン』という音が聞こえるってやつかな?」
「ぺふっ?」
私の傍にいるソルが、ラットルアさんの言葉に反応したように鳴く。
私はソルの行動が気になって少し様子を見るが、それ以上の反応はなかった。
なんだろう?
「キーン」という音が気になったのかな?
「そんな噂があったの?」
ランカさんが、ラットルアさんの言葉に首を傾げる。
「噂ではなくて、俺とシファルは、その音を聞いた冒険者に直接聞いたんだよ。顔見知り程度の冒険者だったんだけど、飲み屋で会った時に。シファル、そうだよな?」
ラットルアさんがシファルさんを見ると、シファルさんは頷いた。
「『きれいな音だったけど、ちょっと怖く感じた』と言っていたな」
「そうだったの。森の奥から『キーン』という音ねぇ」
ランカさんが少し考え込んだけど、すぐに首を横に振る。
「わからないわね。で、一緒にどう?」
依頼表をお父さんに見せながら、ランカさんが聞く。
お父さんは、依頼表に書かれている事を確かめると、私を見た。
「どうする? 結構、森の奥へ入る事になりそうだけど」
お父さんの言葉を聞きながら、私も依頼表を確かめる。
依頼内容は、森の奥から聞こえてくる音の調査。
場所は、王都を出て左側の森、かなり奥に入る可能性もあるみたい。
音の正体が魔物の可能性もある為、上位冒険者向けの依頼になっているのだろう。
「どんな音が聞こえてくるのか、ちょっと気になるね」
私の呟きに、ランカさんが笑顔になる。
「よしっ! さっそく手続きをしてくるわね。みんなはここで待っていて」
楽しそうにカウンターに向かうランカさんを見る。
まだ「受ける」とは言っていなかったんだけどな。
「大丈夫か? まだランカを止められるぞ」
お父さんは、私が承諾していないと気付いているのか、呆れた表情でランカさんを見る。
「大丈夫。音は気になるから。お父さんは大丈夫だった?」
「俺は問題ない」
「ランカが悪いな。でも、2人と一緒に仕事が出来るのはうれしいよ」
シファルさんの言葉に、私は笑顔になる。
「私もうれしい」
最近は、別々の依頼を受けていたからね。
「にゃっ」
シエルが短く鳴くと、シファルさんを見る。
「んっ? 悪い。シエル達もいるから2人じゃないな。みんなと一緒に仕事が出来てうれしいよ」
「にゃうん」
満足そうに鳴くシエルに、シファルさん達が微笑む。
「お待たせ」
シファルさん達と話していると、ランカさんが笑顔で戻って来た。
「依頼を受けて来きたわ。ラットルアが言っていた「キーン」という音の調査で間違いないわ。音を聞いた冒険者は複数いるみたい。森のかなり奥に入る可能性があるようなんだけど、準備は大丈夫かしら?」
ランカさんが、お父さんと私を見る。
「大丈夫だ。アイビーはどうだ?」
お父さんが私を見る。
「私も大丈夫よ」
ランカさんは、シファルさん達にも確認をとると頷く。
「全員、問題なしみたいだから、さっそく森へ行きましょうか。あっ、お昼は途中の屋台で買っていくけど問題ないかしら?」
ランカさんの問いに、私は彼女を見る。
「お昼ごはんは、私が作った料理でよければあるよ」
「えっ? でも、それはドルイドとアイビーの分でしょ?」
私の言葉に、ランカさんが不思議そうな表情をする。
「たくさん作ってマジックバッグに入れてあるから大丈夫」
料理を作るとなると、つい、作り過ぎてしまうんだよね。
だから、マジックバッグの中には大量にある。
「そう。久しぶりにアイビーの料理が食べられるのはうれしいわ。ありがとう」
ランカさん達と一緒に冒険者ギルドを出ると、そのまま森へ向かう。
「行ってらっしゃい。気を付けて」
門番さんに見送られて森へ入ると、依頼表に書いてあったとおり、森の奥へ向かう。
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
森に入るとソラとフレムが楽しそうに、私の周りを跳びはねる。
ソルは、お父さんの頭の上に飛び乗った。
「今日のソルはここか」
「ぺふっ」
お父さんの言葉に、ソルは1度鳴くとそのまま寝てしまう。
「途中で魔物に遭遇したら討伐していく? それとも避ける?」
「にゃうん」
ランカさんの提案に、シエルが鳴き声を上げる。
「あらシエル。ずいぶんやる気ね」
「にゃうん」
「わかったわ。頼むわよ、シエル」
「にゃうん」
ランカさんが頷くと、シエルの尻尾が楽しそうに揺れる。
「ランカとシエルだけで決まったな」
お父さんが少し呆れた様子で呟くと、シファルさんが楽しそうに笑う。
途中で現れた魔物は、宣言通りシエルがあっさりと討伐して、1時間かけて森の奥へ進んだ。
「この辺りで休憩がてらお昼にしましょうか」
ランカさんの提案に、それぞれ椅子になりそうな倒れた木や岩の上に座る。
「食べやすいサンドイッチとおにぎりを出しますね」
私は持っているマジックバッグから、サンドイッチとおにぎりが入ったカゴをそれぞれ3個ずつ出して、ランカさん達に渡す。
みんなで食べると6個のカゴに入っていた料理が、あっという間になくなった。
「「「「「ごちそうさまでした」」」」」
少し休憩をすると、すぐに森の奥へ突き進む。
お昼を食べてから1時間。
「音は聞こえる?」
ランカさんの問いに、みんなは足を止めて耳を澄ます。
木々が揺れる音に、葉っぱが風で舞う音。
魔物が葉っぱを踏む音に、どこかで魔物同士が争っている音も聞こえた。
でも「キーン」という音は聞こえない。
「もっと奥かしら?」
ランカさんが森の奥を見る。
「ぺふっ」
ずっと静かにお父さんの頭の上にいたソルが、ちいさな鳴き声を上げると森の奥に視線を向けた。