1139話 森の奥にあったものは……
1139話 森の奥にあったものは……
「ソル、どうしたの?」
お父さんの頭の上で、森を見渡しているソルに声を掛けると、みんながソルに視線を向けた。
「アイビー、ソルがどうしたんだ?」
お父さんの問いに、私は首を傾げる。
「何か気になるのか、ソルが森を見回しているの」
私の返事に、お父さんが頭の上にいるソルに手を伸ばす。
「ソル。どうした? 何が気になるんだ?」
お父さんがソルをそっと撫でると、ソルはプルプルと体を揺らした。
そして、ある方向をジッと見つめて動かなくなった。
私は、ソルが見ている方向を確認して、ランカさんに視線を向ける。
「ランカさん、ソルが見ているほうに何か気になるものってある?」
「どうだったかしら。あっちは……特に思い出すものはないわね。みんなはどうかしら?」
ランカさんがシファルさん達に問うと、彼らも首を横に振った。
「特に目立つものも、気になるものもなかった筈だ」
シファルさんの言葉に、ヌーガさんが頷く。
「そう。でもソルは気になっているみたい」
ソルは今もずっと、同じ方向を見つめている。
「ランカさん、ソルが見ているほうへ行っていい?」
「もちろんよ。もしかしたら音の正体がわかるかもしれないわね」
ランカさんの許可をもらい、私達は、ソルがジッと見つめているほうへ足を向けた。
そこから、30分くらい歩き続けると、ソラとフレムが止まった。
「ぷっぷ~?」
「てっりゅ~?」
ソラとフレムが、不思議そうな表情で向かっているほうを見つめる。
「ぺふっ!」
でも、ソルは、お父さんの頭の上でうれしそうな鳴き声を上げた。
「何かあるみたいだな。でもソラとフレムはわからず、ソルだけがわかるものって……」
お父さんの呟きに、シファルさんの表情が険しくなる。
「ソルと言えば、魔法陣が思い浮かぶんだけど……」
ラットルアさんの言葉に、私は足元を見て、そっと葉っぱをよけ、土を露わにした。
そして、そこに何も刻まれていない事がわかると、ホッとした。
「恐ろしい事を言うな」
ヌーガさんが嫌そうに言うと、ラットルアさんが肩を竦める。
「とりあえず、突き進みましょうか」
ランカさんはそう言うと、ソラ達が見ているほうへ足を向けた。
あれ?
この辺りは、魔物の鳴き声や動く時の音が聞こえない。
風が葉っぱを揺らす音や、木々がこすれる音はするのに。
少しずつ緊張感が増していく中、森の奥へ突き進む。
ふと、ラットルアさんの言葉を思い出し、足元の葉っぱをどけて土を露わにする。
「えっ……待って、止まって!」
「止まって、魔法陣だわ!」
私と同時にランカさんが叫ぶ。
その内容に、お父さん達の表情が一気に険しくなった。
「魔法陣、何処に?」
シファルさんの言葉に、ランカさんが足元を見る。
「私達の下にあるの。魔法陣の中に入ってしまったみたい」
「嘘だろ」
ランカさんの説明に、ラットルアさんが嫌そうな表情で呟く。
「本当みたいだな」
お父さんが足元の葉っぱをよけると、溜め息を吐いた。
「ぺふっ!」
ソルがお父さんの頭の上から下りると、お父さんが葉っぱを避けて出てきた魔法陣をジッと見る。
「ソル、この魔法陣は危険?」
「……」
ソルが鳴かないという事は。
「安全なの?」
「ぺふっ」
ソルの返事を聞いたランカさんが、その場に座り込む。
「良かった~。どう見ても巨大な魔法陣だから焦ったわよ~」
確かに、足元に見える魔法陣は、全体のほんの一部だ。
その一部から魔法陣の全体を想像すると、かなり大きな魔法陣だとわかる。
「はぁ、今は安全な魔法陣とはいえ、いつ発動するかわからない。ランカ、気を付けろ」
「うん」
シファルさんの言葉に、ランカさんは神妙に頷き、さっと立ち上がった。
「ぺふっ?」
ソルが不思議そうな表情でシファルさんを見る。
「どうした?」
ソルに見つめられたシファルさんが、少し戸惑いながらソルに聞く。
ソルは、シファルさんの足元を見てから、プルプルと震えた。
「えっ?」
ソルの態度に、シファルさんは困惑した表情で私を見る。
私は、ソルがシファルさんに反応する前に、彼が何を言っていたのか考える。
「ソル、この魔法陣は発動前ではないの?」
「ぺふっ」
つまり、発動している魔法陣?
でも、それはないよね。
だって、魔法陣がまったく光っていないから。
ソルの返事に、みんなの緊張が増す。
「でも、安全なんだよね」
「ぺふっ」
発動後なのに安全?
「もしかして発動したけど、無効化されたのか?」
お父さんの呟きに、ソルがぴょんと飛び跳ねる。
「無効化されている魔法陣か。それなら間違いなく安全だな」
シファルさんが安堵した様子で言うと、みんなも頷く。
「キーン」
「えっ」
今、かすかに「キーン」という音が聞こえた。
「お父さん、聞こえた?」
「あぁ、聞こえた」
お父さんにも聞こえたのか、周りを見渡す。
「俺も聞こえたぞ」
ラットルアさんにも聞こえたのか、少し警戒を強めていた。
「キーン」
あっ、まただ。
「この音、私達が調査する音ね」
ランカさんの呟きに、シファルさんとヌーガさんも聞こえたのか頷いた。
「でも、何処からだ?」
シファルさんの呟きに、みんなが困惑した表情を見せる。
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
「ぺふっ」
「にゃうん」
私達が困っていると、ソラ達が力強く鳴く。
そして、ソルが見つめていたほうへ向かった。
「そっちなのか?」
お父さんの問いに、シエルがチラッとお父さんを見る。
「にゃうん」
「ソラ達が、案内をしてくれるみたいね」
ランカさんがうれしそうに言うと、ソラ達の後を追う。
それにつられるように、みんなが動き出す。
「何処まで行くのかしら?」
「キーン」
ランカさんが不思議そうに言うと、先ほどより大きい音が聞こえた。
「きれいな音だね」
高音で澄んでいるような音に私は思わず呟く。
「そうだな。ただ、音の正体がわからないから、少し怖くもあるな」
お父さんがそう言うと、また先ほどより少し大きな音が森に響いた。
あれ?
私は、木々の間から見えたものに息を呑み、足を止めた。
「アイビー、どうした?」
私の行動に気づいたお父さんが、足を止めて振り返る。
お父さんの声が聞こえたのか、先頭を歩いていたシファルさんとランカさんが立ち止まる。
「どうしたの?」
ランカさんの問いに、私は無言で木々の間から見えたものを見つめた。
「何が見えるんだ?」
お父さんが私の横に立つ。
そして、私が見ているものが何かわかると、お父さんが息を呑む音が聞こえた。
「そうか。発動した魔法陣を無効化したのは……あの木の魔物か」
お父さんの言葉に、シファルさんが私の傍に来る。
そして私が立ち止まった原因がわかると、ポンと私の肩を軽く叩いた。
「大丈夫か?」
「うん。大丈夫」
シファルさんが私を心配そうに見るので、私は笑って返事をした。
「大きな木の魔物のようね」
ランカさんが私の傍に来て、木々の間から見えた黒くなった木の魔物を見て呟く。
「キーン」
先ほどより大きくなった音に、私は木の魔物を見る。
「あの音と、黒くなった木の魔物に関係はないよね?」
「どうかしら」
私の問いに、ランカさんが首を傾げる。
「とりあえず、あの木の魔物の所に行ってみましょうか」
ランカさんの提案に頷くと、木の魔物に向かって歩いた。
数分後、巨大な木々に隠されていた黒くなった木の魔物が姿を見せた。