1141話 ありがとう
1141話 ありがとう
しばらくすると、ソラ達が私の傍に来る。
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
「ぺふっ」
三匹はとても満足そうに鳴き、私に向かって胸を張る。
これは、褒められるのを待っているのかな?
「ソラ、フレム、ソル。お疲れ様。みんなすごいね」
私の言葉に、満足そうな表情を見せるソラ達を見て、ランカさん達が面白そうに笑い出す。
「ぷ~」
その笑い声に、ソラが不満そうに鳴く。
「ごめん。でも、本当にすごい事をしたね。黒の木の魔物から黒のスライムが生まれるなんて、ソラ達がいなかったら知る事はなかったわ」
ランカさんはソラ達の傍に来ると、3匹の頭を順番に撫でる。
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
「ぺふっ」
「なぁ、黒のスライムがどうやって生まれるのかわかったのはいいんだけど、この子達はどうするんだ?」
ラットルアさんが、私達を囲うようにいる大量の黒のスライムを見る。
「そうだな。どうするべきか……」
シファルさんも大量にいる黒のスライムを見て呟く。
「ぺふっ」
ソルが、ラットルアさんとシファルさんに向かって鳴くと、傍にいた黒のスライムに視線を向ける。
「ぺふっ」
「ぷしょっ」
「ぺふっ、ぺふっ」
「ぷ~ぷしょっ!」
ソルと黒のスライムが会話するように鳴き合っていると、なぜか周りにいた黒のスライム達がソワソワし始めた。
「何が起こるのかしら?」
ランカさんが不思議そうに、周りの黒のスライムを見ていると、ソルと鳴き合っていた黒のスライムが、大きくピョンと飛び跳ねた。
「ぷしょっ」
そして大きな声で鳴き、そのまま森へ向かって動き始める。
周りにいた大量の黒のスライムも、移動を始めた黒のスライムに続くように森へ向かった。
「「「「「……」」」」」
森へ消えていく黒のスライムを、みんな無言で見送る。
そして、最後の1匹の姿が木々で見えなくなると、ランカさんがソルを見た。
「ソルが何か言ってくれたんだね、ありがとう」
「ぺふっ?」
ランカさんの問いに、ソルが体を傾ける。
「あれっ? 言ってくれたわけではないのかな?」
ランカさんが戸惑った表情で私を見る。
「ソル」
「ぺふっ?」
「黒のスライム達に森へ行くように言ってくれたの?」
ソルは私の問いに答えず、ジッと私を見る。
「違うのかな?」
ソルの反応に私が首を傾げると、お父さんが私の肩に手を置く。
「ソルが何か言ったのは間違いないだろう。でも、森へ行くように言ったわけではなく……なんだろうな」
お父さんは少し考えるが、首を横に振る。
パン。
「まぁ、何でもいいわ。とりあえず依頼は達成ね」
ランカさんが両手を1度叩くと、黒くなった木の魔物を見る。
黒くなった木の魔物は、あちこちの枝が折れてしまい、なんとなく悲しい姿になっていた。
「音の正体がわかり、魔物が関わっていたけど問題ない事が判明。黒のスライムの誕生方法がわかったのもお手柄じゃない?」
ランカさんの明るい声に、シファルさん達が笑顔になる。
「そうだな。黒のスライムの誕生に立ち会ったなんて言ったら、みんな、羨ましがるだろうな」
ヌーガさんの言葉に、ラットルアさんが何度も頷く。
「パパスとパガスがうるさくなるだろうな」
ラットルアさんの呟きに、私は首を傾げる。
パパスさんとパガスさんが、どうして騒がしくなるんだろう。
ラットルアさんは私の様子に気付くと、少し疲れた表情を見せた。
「パパスがスライム好きなんだよ。いろいろ勉強もしている。パガスも姉の影響でスライムについて詳しいんだが、最近、黒のスライムが好きになったらしい。以前2人に、ソラ達について問い詰められたよ」
「そうなんですか」
私の前では、普通の冒険者だったけどな。
「ここでの仕事も終わったし、王都に戻りましょうか」
ランカさんの言葉に、みんなで後片付けをする。
それが終わると、自然と黒くなった木の魔物の前に並んだ。
「ありがとう。安らかに」
ランカさんの言葉に、みんなが目を閉じ、祈る。
ふわっと少し強めの風が吹く。
目を開けて、黒くなった木の魔物を見ると、枝の先からさらさらと砂になっていくのが見えた。
「あっ、砂になっていく」
私の呟きに、みんなが砂になっていく枝を見る。
ランカさんが、黒くなった木の魔物に深く頭を下げると、私達を見て笑う。
「王都へ帰りましょうか」
ランカさんの言葉に頷くと、みんな黒くなった木の魔物に頭を下げ、王都に向かって歩き出した
「にゃうん」
シエルの鳴き声に、立ち止まって振り返る。
シエルは、黒くなった木の魔物に向かって一度鳴くと、私の傍に駆けてきた。
「挨拶をしてきたの?」
「にゃうん」
「帰りもよろしくね」
「にゃうん」
私の言葉にシエルはうれしそうに鳴くと、先頭を歩くランカさんのところへ行った。
黒くなった木の魔物から30分ほど歩いたところでヌーガさんが立ち止まる。
「どうした?」
「あれだ」
シファルさんの問いに、ヌーガさんが左側の森を指す。
私はヌーガさんの指したほうを見て、思わず頬が緩む。
私達の視線の先には、3匹の黒のスライムが枝の上からこちらを見て、縦運動をしていた。
3匹は満足したのか、縦運動を止めると、枝から下りて何処かへ行ってしまう。
「あれに意味ってあると思う?」
ランカさんが困惑した表情でみんなに聞くと、シファルさん達は首を傾げた。
「意味はわからなかったが、満足そうだったからいいだろう」
お父さんの言葉に、ランカさんは「そうね」と呟くと、また歩き始めた。
「スライムの事、もっと勉強したくなったわ」
ランカさんの呟きに、お父さんが頷く。
「そうだな。でも、勉強をしたいと思っても難しいだろう。本に書かれているのは、一般的なスライムの特徴だけだから」
私はお父さんの言葉に、これまで読んできたスライムの本の内容を思い出して頷く。
「そうね。かなり難しいわね」
「文献としては認められていないけど、色々な研究資料が王都に集められているらしい。そこになら、スライムの研究資料もあるんじゃないか? 偽の情報もあるだろうから、注意も必要だろうけど」
ラットルアさんの言葉に、ランカさんが少し考え込む。
「そういう資料が、王都に集められていると聞いた事はあるわ。文献にするには情報が足りなかったり、研究が中断されてしまったために結果がわからない資料などよね」
そんな資料が集められているんだ。
「そうそう。まぁ、本当にあるかどうかはわからないけど、ドールさんなら何か知っているんじゃないか」
ラットルアさんはそう言うと、ランカさんを見る。
ランカさんは真剣な表情で考えると、1度頷いた。
「そうね、ダメもとでドールさんに知っているか聞いてみようかしら」
「ランカさん」
「アイビー、どうしたの?」
「スライムについて勉強する時は、私も一緒にいい?」
私ももっとソラ達について知りたい。
「わかったわ。まずはドールさんに聞いてみるわね」
「うん」
シファルさんが、ランカさんと私の会話に首を傾げる。
「もっと確実に知っていそうな人がいるのにさ、どうしてドールさんなんだ?」
「えっ、誰の事?」
ランカさんが不思議そうにシファルさんを見る。
「アイビーがお願いしたら、何でも許可を出しそうなフォロンダ公爵がいるだろう」
「あぁ、そうね。フォロンダ公爵がいたわ」
シファルさんの説明に、ランカさんが納得した様子で頷く。
私は、シファルさんの言葉に首を傾げる。
「何でもは無理だと思うけど……」
「いや、いける。アイビーがお願いしたら、いける」
私の呟きに、ラットルアさんが拒否する。
「そうかな?」
私がお父さんを見ると、お父さんは肩を竦めた。
「どうかな。まぁ、資料ぐらいなら見せてくれるだろう」
資料って、大切な物だと思うけど……。