1142話 魔物達の咆哮
1142話 魔物達の咆哮
王都に戻り、そのまま冒険者ギルドへ向かって、今日の出来事をランカさんが報告する。
報告を終えると、報告を聞いていた冒険者ギルドの職員さんが慌てて奥へ走って行った。
その様子を、少し離れた場所からお父さん達と一緒に見る。
「やっぱり奥へ走ったな」
シファルさんの呟きに、ヌーガさんが頷く。
「まぁ、そうなるだろうな」
「これから詳しい説明をして、質問を受けて……時間が掛かりそうだな」
ラットルアさんが時計を見て嫌そうに言うと、シファルさんが頷く。
「お腹もすいているし、リーダーに全て託して、俺達は夕飯でも食べに行こうか」
リーダー?
いつもは「ランカ」と呼び捨てで呼んでいるのにどうしたんだろう。
「こういう時だけリーダー呼びするのは止めてくれるかしら?」
いつの間にか傍にいたランカさんが、シファルさんに笑顔を見せる。
「あれ? そうだったかな?」
シファルさんが笑って返事をすると、ランカさんは笑顔なのに、私は寒気がした。
「ふふふっ。シファル、一緒に説明をしてちょうだいね」
ランカさんの言葉に、シファルさんが嫌そうな表情で溜め息を吐く。
「はぁ、俺かぁ」
シファルさんの傍にいるヌーガさんとラットルアさんが、ホッとした表情をすると、ランカさんが2人に視線を向ける。
「これから詳しい報告があるから、絶対に疲れると思うのよね。だから、ラットルア達は疲れを癒す為の甘味を買っておいてね。私好みの物をよろしく」
ランカさんが笑顔でそう言うと、ラットルアさんの眉間に皺が寄る。
「ランカの好み? なんだ? なんでも食べるから知らないな」
ランカさんの甘味の好みか。
特においしそうに食べるのは、焼き菓子だよね。
ちょっと酸味の利いた果物が入った焼き菓子を食べている時が、一番良い表情をしている気がする。
「『炎の剣』のリーダー、ランカさん。すみませんが、奥で詳しい報告をお願いします」
若い女性がランカさんの傍に来ると頭を下げる。
「わかったわ。シファル、行きましょう」
「はい」
シファルさんは諦めた様子で頷くと、ランカさんと一緒に、冒険者ギルドの奥へ向かった。
「ドルイド、あなた達の依頼達成の手続きもしておくわね」
ランカさんが振り返ると、お父さんを見る。
「ありがとう、頼む」
お父さんの返事を聞いたランカさんは、私に向かって手を振った。
ランカさんとシファルさんの姿が見えなくなると、私はお父さん達と一緒に冒険者ギルドを出る。
「ランカの好きな甘味……全くわからない。ヌーガ、わかるか?」
ラットルアさんの問いに、ヌーガさんが頷く。
「焼き菓子をよく食べているから、焼き菓子だと思う」
ヌーガさんの答えに、私はなんとなくホッとする。
「味は?」
「それが、何でも食べていたからな」
ラットルアさんとヌーガさんが首を傾げているのを見て、私は2人を見る。
「酸味のある果物が入った焼き菓子だと思うよ」
「そうなのか?」
私の言葉に、ラットルアさんが少し驚いた表情をする。
「うん。焼き菓子は良く食べているけど、酸味のある果物が入った焼き菓子を食べている時が、一番良い表情をしているから」
私の説明に、ラットルアさんとヌーガさんが感心した様子で頷く。
「さすが、よく見ているな。ありがとう。酸味のある果物が入った焼き菓子だな」
ラットルアさんが確認するように呟くと、周りに視線を向ける。
私達は今大通りにいるので、焼き菓子を扱っている店も結構ある。
「何処を選べばいいんだ?」
ラットルアさんはそう言うと、近くの店の焼き菓子を見比べた。
「適当に店を選んだら、バレそうだよな」
ヌーガさんの呟きに、お父さんが頷く。
「絶対に気付くだろうな」
焼き菓子を扱っている店を眺めながら大通りを歩く。
「あ~わからん。もう、次に見つけた店にしないか?」
「てっりゅりゅ~」
フレムの鳴き声に視線を向けると、大通りから横道に入る場所で飛び跳ねていた。
「フレム。どうしたの?」
「てっりゅりゅ~」
フレムは私を見て鳴くと、横道に入って行く。
「えっ、ちょっと待って」
私がフレムの後を追うと、お父さん達も付いてくる。
「フレム?」
フレムは、私達が追ってきているのを確かめると、そのまま突き進み、ある店の前で止まった。
そして、私に視線を向けて、何度も跳びはねて見せた。
「この店がどうしたの? あれ? 焼き菓子を売っている店だ」
私が店の中を見て呟くと、お父さん達も店の中を見た。
「本当だ。もしかしてランカの好きな焼き菓子だったりしてな」
「てっりゅりゅ~」
ラットルアさんの言葉に、フレムが自慢げに鳴く。
「えっ、本当にそうなのか?」
ラットルアさんが驚いた表情でフレムに聞くと、フレムは満足そうな表情をしていた。
「この店が……。アイビー、本当だと思う?」
ラットルアさんが私の傍に来ると、小声で聞く。
私は少し考えると頷く。
「本当なのかはわからないけど、フレムが嘘を教える理由はないから、信じてもいいと思う」
「それもそうだな。よし、買ってくるよ」
ラットルアさんが店に入ると、焼き菓子が大量に入ったカゴを2個購入した。
「ありがとうございました」
ラットルアさんが店から出てくると、笑顔で私を見る。
「ランカの事を聞いたら、店主が覚えていたよ。よく買いに来るそうだ」
そうなんだ。
それにしても、フレムはどうしてこの店を知っていたんだろう。
しかもランカさんが好きな焼き菓子のある店だと。
「フレム、ありがとう。すごく助かったよ」
「てっりゅりゅ~」
胸を張って鳴くフレムにラットルアさんは笑うと、優しくフレムの頭を撫でた。
「よし、帰ろうか。フォリーさんがおいしいご飯を作ってくれているだろうし」
ヌーガさんの言葉に、私のお腹が小さく鳴く。
私が手でお腹を押さえると、お父さんが私の頭を優しく撫でた。
「今日の夕飯は何かな?」
「なんだろうね」
みんなで話しながら、フォロンダ公爵の豪邸に向かう。
貴族達の豪邸が並ぶ場所に着いた時、魔物達の咆哮がはっきりと聞こえた。
「なんだ?」
ラットルアさんが武器に手を置き、周りを見る。
ヌーガさんもお父さんも、武器を手に持ち警戒した。
「何処からだ?」
また聞こえた魔物達の咆哮に、ヌーガさんが首を傾げる。
「この近くではないみたいだな。まさか、森から聞こえたのか?」
森は王都を囲うようにある為、魔物の咆哮が微かに聞こえる事はある。
でも、さっき聞こえたような大きな咆哮は初めてだ。
「森で何かあったな」
お父さんの呟きに、ラットルアさんとヌーガさんが険しい表情で頷く。
「何処だ?」
「この辺りじゃないぞ」
魔物達の咆哮が聞こえたのか、貴族達の豪邸から、冒険者達や貴族達が姿を見せる。
そして、不安そうに周りを見回した。
「あっ、ヌーガさん」
豪邸から出てきた男性冒険者の1人が、ヌーガさんに気付くと駆け寄って来た。
「すみません、何が起こっているのかわかりますか?」
冒険者の問いに、ヌーガさんは首を横に振る。
「わからない。ただ、森から聞こえてきていると思う。ジャオは、貴族の護衛か?」
ジャオと呼ばれた冒険者は、ヌーガさんの問いに頷くと、不安そうに身を寄せ合っている男女に視線を向けた。
「あの方達が王都にいる間の護衛です。と言っても、明後日までですけどね」
「そうか」
「あっ、まただ」
再度聞こえてきた魔物達の咆哮に、ジャオさんが不安そうな表情になる。
「ジャオ。原因がわからないから、建物内に戻ったほうが良い」
「わかりました。何かわかったら教えてください」
ジャオさんは、不安げな表情をしている男女の元へ行くと、建物の中に促した。
「俺達も帰ろうか」
ヌーガさんの言葉に、再度聞こえてきた咆哮を気にしながら、フォロンダ公爵の豪邸に帰った。