1143話 先を考えて
1143話 先を考えて
「おはよう」
朝、食堂に入ると、お父さんがいた。
ランカさん達の姿はない。
「おはよう。あまり寝られなかったみたいだな」
お父さんの指摘に、私は頷く。
「うん。昨日の魔物達の咆哮が気になって。何かわかった?」
昨日、フォロンダ公爵の豪邸に帰ってくる頃には、魔物達の咆哮は聞こえなくなっていた。
お父さんもラットルアさんも気にしなくていいと言ってくれたけど、どうしても気になってしまい、あまり寝られなかった。
「ランカとシファルが帰ってくる頃には、原因は判明していたそうだ」
「そうなんだ」
「おはようございます。すぐに朝ご飯を用意いたします」
食堂の奥からドールさんが出てくると、私の前に暖かいお茶を置く。
「ありがとうございます」
ドールさんは私の言葉に笑って頷くと、食堂の奥へ戻り、すぐに朝ご飯を持ってきてくれた。
「アイビーさん、朝ご飯の量は足りていますか? ほかの方とはかなり量が違うのですが」
「大丈夫です」
お父さん達と同じ量を食べたら、お腹が重くなって動けなくなると思う。
「そうですか? 少ないので心配なのですが、足りないと思ったら、すぐに言ってくださいね」
「はい、ありがとうございます。いただきます」
野菜がくたくたに煮込まれたスープを飲むと、優しい味が口の中に広がった。
「おいしい」
「アイビーの食べる量は以前よりは増えたけど、まだ少ないよな」
お父さんの呟きに私は動きを止めて、目の前に並ぶ料理を見る。
大きなスープ皿に入ったスープと野菜の炒め物が間違いなく一人前より少し多めにある。
そして、白いパン2個と果物が今日の朝ご飯だ。
「十分だと思う。お父さん達に比べたら少ないと思うけど」
お父さんを見ると、お父さんは何か考え込んでいた。
「いや、俺がアイビーの頃は、その倍は食べていたような気がする」
「えっ」
「おそらく、ランカ達もドールさんもだろうな」
もう一度、目の前にある料理を見る。
「これの倍……すごいね」
だから、みんな体格がいいのかな?
私だって、これでもかなり食べる量は増えたんだけどな。
スープを飲みながら、もう少し食べたほうが良いのか考える。
「まぁ、人それぞれ適量があるから。無理して食べても良い事はないよ」
「うん。そうだよね」
うん、私はこの量が適量だと思う。
「それでお父さん、昨日の咆哮の原因はなんだったの?」
私の問いに、お父さんは私に視線を向ける。
「『捨てられた大地』から、昨日はいつもより多く魔物が溢れたそうだ。そのせいで、周りの魔物が影響を受けて、魔物達が少し暴走して咆哮を上げたという事らしい」
捨てられた大地から魔物が……。
「そうだったんだ。溢れた魔物はどうしたの?」
「緊急で上位冒険者が集められて討伐に向かい、制圧出来たと報告が届いたそうだ。ただ、怪我人が出たとも言っていたな」
溢れた魔物が制圧出来たのは良かったけど、怪我人が出ているのか。
「あっ、ソラ達のポーションが役に立ったかな?」
ソラ達のポーションは、「捨てられた大地」の問題に優先的に使用されると、ジナルさんから聞いた。
「おそらく活躍しただろう」
「ぷぷ~?」
私と一緒に食堂にきていたソラが、名前を呼ばれた事に気付いたのか、私とお父さんを見る。
「ソラの作ったポーションが、活躍したかもしれないって話だよ」
私はソラに説明すると、ソラは満足そうな表情を見せた。
「おはよう」
食堂にランカさんが入ってくる。
そのあとを、欠伸をしながらラットルアさんが続く。
「アイビー、ドルイド。おはよう」
「ラットルアさん、かなり眠そうだね。大丈夫?」
「大丈夫。ちょっと調べ物をしていて、徹夜だっただけだから」
えっ、昨日は一緒に夕飯を食べて、お休みって別れたのに。あれから調べ物をしていたの?
しかも、徹夜で?
「ラットルアは1日くらい、寝なくても大丈夫よ。ね」
ランカさんが元気にラットルアさんに言うと、彼はランカさんを睨む。
「誰のせいで徹夜になったと思ってるんだ」
「あははははっ」
ラットルアさんの言葉に、ランカさんは視線を逸らしながら笑った。
「ランカさん」
果物を食べきると、ランカさんに声を掛ける。
「どうしたの」
朝ご飯を食べながら、ランカさんが私を見る。
「昨日の報告、問題なかった?」
黒くなった木の魔物から、黒のスライムが生まれる報告は信じてくれたんだろうか?
「報告はすぐに信じてくれたから問題なかったわよ。ただ、説明している間に、ギルマスが来てね」
ギルマスさんが?
「すごく羨ましがられて、鬱陶しかったわ」
ランカさんの説明に、後片付けをしていたドールさんが小さく笑う。
「あら、ドールさんはギルマスと親しいの?」
ランカさんの問いに、ドールさんが頷く。
「親しいと言えるのかは少し疑問ですが、一緒に仕事をした事があります」
「そうなの。どんな仕事……あ~、この質問はなし」
ランカさんが焦った声で言うと、ドールさんが苦笑する。
「ごちそうさま」
ラットルアさんは朝ご飯を食べ終わると、お父さんと私に視線を向けた。
「ドルイド、アイビー。近々、上位冒険者達に召集が掛かるかもしれないから、覚悟しておいたほうがいいぞ」
「わかった。準備をしておくよ」
上位冒険者達に召集?
捨てられた大地から魔物が溢れた事と関係あるのかな?
「うん、わかった」
準備って何が必要なんだろう。
あとでお父さんに聞こう。
「ランカさん。シファルさんとヌーガさんはどうしたの?」
「んっ? まだ起きてこないの?」
私の問いに、ランカさんが不思議そうな表情をする。
「それはわからないけど、今日はまだ見ていないの」
私の返事に、ランカさんが朝ご飯を食べ終わると席を立つ。
「二人を様子を見て来るわ。寝ているんだったら起こさないと」
「起きてるぞ。皆、おはよう」
食堂に、シファルさんとヌーガさんが入ってくる。
「今起きたって感じではないわね。何をしていたの?」
ランカさんの問いに、シファルさんとヌーガさんがそれぞれ武器を見せる。
「あぁ、昨日戻ってきていた武器ですか」
ドールさんの言葉に、私は首を傾げる。
「そう言えば、武器専門の整備士にそれぞれ武器の整備を頼んでいたわね。戻って来たの?」
「あぁ、昨日ドールさんに、取りに行ってもらったんだ。依頼を立て続けに入れる誰かのせいで、取りに行けなかったから」
シファルさんの説明に、ランカさんがそっと視線を逸らす。
「問題は?」
ラットルアさんがシファルさんの武器を見ながら聞くと、シファルさんとヌーガさんは満足そうにそれぞれの武器を見て頷いた。
「ない。完璧な整備だ。残りの武器の整備も頼もうか考えていたんだ」
「俺も、少し感じていた違和感が全くなくなっていたから、予備の武器も頼もうと考えていた」
シファルさんとヌーガさんの言葉に、ランカさんとラットルアさんが少し考え込む。
「これからの問題を考えると、全ての武器を整備しておいたほうが良いかもしれないわね」
ランカさんの小さな呟きに、ヌーガさんが視線を向ける。
「捨てられた大地の問題か?」
「うん。昨日の咆哮の原因は、捨てられた大地から魔物が溢れたからだった。冒険者ギルドで働いている時にも、魔物が溢れる事はあったわ。でも、1年に4回くらいだったの。今年は、私が知っているだけで、もう10回以上。捨てられた大地で異常が起こっている事は間違いないわ。だから、何が起こっても対応出来るように準備をしておこうかと思って」
ランカさんの説明に、ヌーガさんが深く頷いた。
「そうだな。俺も予備の分も整備しておくか」
「アイビー」
お父さんに呼ばれ視線を向けると、お父さんは真剣な表情をしていた。
「今使っている弓の整備を頼もう。あと、もう1本か2本、予備の弓を買っておこう」
「うん、わかった」
準備って、すぐにでも戦えるようにしておくって事なのかな。