1144話 新しい弓
1144話 新しい弓
朝の特訓が終わると、シファルさんが私の肩甲骨まわりの筋肉のつき具合を見てくれた。
「うん、少しずつだけど練習の結果が出てきているな」
シファルさんの言葉にホッとする。
頑張っているのに、全く変わっていないと言われたら悲し過ぎる。
「ありがとう」
使った弓を片付けていると、お父さんがシファルさんの傍による。
「アイビーの弓を買い足そうと思うんだけど、お薦めはあるかな?」
「そうだな、最近発売された、魔物の骨を使った弓があるんだけど、あれを1本持っておくといいと思う。冒険者達の間で、魔物の攻撃を受けても壊れないと評判なんだ」
魔物の骨を使った弓?
そんな弓があるんだ。
「攻撃を受けても壊れない?」
お父さんが少し驚いた表情で聞くと、シファルさんが頷く。
「何度も攻撃されたら無理だけど、4回か5回くらいは耐えるそうだ。ただ少し値段が高い。でも、これから行こうとしている場所が場所だからな」
「わかった。その弓は、今のアイビーでも使えるんだな?」
お父さんの言葉に、シファルさんが少し考え込む。
「攻撃を受けても壊れない理由は、骨に魔力が溜まっているからだそうだ。その魔力とアイビーの持つ魔力が反発しなければ大丈夫だと思う。あと、これまでの武器とは勝手が違うから練習は多めに必要かもしれない」
私は魔力が少ないけど、それでも反発するのかな?
「そうか。アイビー、どうする?」
シファルさんの説明にお父さんは頷いて、私を見た。
「欲しい」
シファルさんが薦めるという事は、私にとって必要な武器なのだと思う。
だったら、練習するしかないよね。
「わかった。昨日、魔物が暴れたから、今日は森へ行ける者は限られている筈だ。だから、冒険者ギルドで依頼を確認してから、武器屋へ行こうか」
お父さんの提案に、私は笑って頷く。
「うん。武器屋は「マルール」へ行くの?」
「あぁ、そのつもりだ。あそこの品揃えはすごいからな。新しい商品も揃っているだろう」
お父さんの返事に、私は手に持っている弓を見る。
新しい弓か。
頑張って、練習をしないとな。
ドールさんとフォリーさんに声を掛けてから、冒険者ギルドへ向かう。
途中、大通りを歩いていると、昨日聞こえてきた魔物達の咆哮の噂でもちきりだった。
「皆、気になるみたいだね」
私の呟きに、お父さんが頷く。
「魔物の暴走は、死活問題だからな」
魔物が暴走して王都を襲えば、建物だけでなく人にも大きな被害が出るもんね。
冒険者ギルドに入ると、上位冒険者達の姿が多かった。
それに驚いていると、お父さんが掲示板を指した。
「何か出ているかもしれないな」
お父さんと一緒に掲示板の前に立つと、依頼票を確認していく。
「あれだ」
お父さんが指したほうを見ると、2枚の依頼票があった。
1枚目は、捨てられた大地から溢れ出た魔物を討伐する冒険者を募るもの。
2枚目は、捨てられた大地にいる冒険者達に物資を届ける冒険者を募っているものだった。
どちらも詳細は、冒険者ギルド職員が説明すると書かれていた。
「集まっている上位冒険者達は、討伐依頼を受ける為にいるの?」
私の問いに、お父さんは首を傾げる。
「どうかな? 物資を届けるほうかもしれないぞ」
「あっ、そうだね」
そう言えば、どちらの依頼票にも、上位冒険者限定という言葉がないな。
下位冒険者でもいいって事かな?
「お父さん」
「どうした?」
「あの依頼、下位冒険者でもいいの?」
私の問いに、お父さんが驚いた表情をする。
「えっ……あぁ、冒険者の指定がないからか。まぁ、書かれていないから話を聞く事は出来るだろうけど、依頼は受けさせてもらえないと思うぞ。冒険者ギルドは、冒険者達の命を守る事が仕事だから」
「そっか」
私は集まっている上位冒険者達を見る。
「お父さんは、どうするの?」
「今回は受けるつもりはない。まずは準備をしないと駄目だからな」
「うん、わかった」
捨てられた大地へ行きたいと思ってきたけど、現実味を帯びると、怖くなってくるな。
逃げるつもりなんてない。
でも、私に何が出来るんだろうって不安になる。
「武器屋「マルール」へ行こうか」
お父さんが冒険者ギルドの出入り口に向かいながら、私を見る。
「うん」
冒険者ギルドを出て、武器屋「マルール」に向かう。
大通りはいつも通り人が多く、あちこちから話し声が聞こえた。
武器屋「マルール」に着くと、弓が並べられている棚に向かう。
「魔物の骨を使った弓は……あそこだな」
通常の弓が並ぶ棚ではなく、魔物の骨を使用した弓は、少し離れた場所に置いてあった。
魔物の骨が使用されている弓を見ると、骨の太さがそれぞれ違う事に気付く。
「アイビー」
「うん?」
お父さんを見ると、1本の弓を私に渡した。
「とりあえず、弓に触って確認していこうか。どれが自分の魔力に合うのか、実際に触ってみないとわからないだろうから」
「うん」
お父さんが渡してくれた弓を構えて弦を引き絞る。
「これ、固い」
いつも通り弦を引くが、思うように弦が引けない。
「魔力の反発は感じるか?」
「それはないけど、この弓は、私には扱えないと思う」
「そうか。こっちはどうだ?」
今持っている弓より細い骨を使用した弓を、お父さんが差し出す。
それを受け取ると、弓を構えて弦を引き絞る。
「あっ、さっきのよりずっといい」
いつも使っている弓とは感覚が違うけど、この弓はいいかもしれない。
ただ、もっと筋肉をつけないと駄目だね。
構えが安定していない。
「魔力の反発は?」
お父さんの問いに、私は首を横に振る。
「それは大丈夫」
「アイビーは、魔力の反発は心配しなくてもいいかもしれないな。次はこっちを試そう」
「うん」
お父さんが次々と渡してくる弓を順番に試し、弦を引いて様子を見る。
20本試して、気に入った弓を2本に絞り込んだ。
「この2本か?」
「うん」
お父さんが2本の弓を確認する。
「どっちも買おうか」
「えっ?」
値段を見ると、普通の弓の2倍の金額だった。
それを2本も?
「必要だと思う?」
「うん。捨てられた大地では何が起こるかわからない。予備はいくつあってもいいと思う」
そうなんだ。
「武器は命を守る大切な物だからな」
「そうだね。うん、それなら2本とも買う」
「わかった。あとは矢だな。これは注文していこうか」
「うん、ありがとう」
捨てられた大地の話をドールさんから聞いてから、お父さんがちょっといつもと違うような気がする。
それだけ、あの場所は危険だって事なんだろうな。
「お父さん」
「どうした?」
「お父さんの武器の予備はいくつあるの?」
いつも使っているのはソラの作った剣だよね。
もしもの時、すぐに使えるようにと手入れしている剣があるのは知っている。
という事は、予備は1本かな?
「予備は2本だな」
お父さんの返答に、私は少し考える。
「2本……」
見た事あるかな?
「アイビーは、見た事がないかな。師匠がくれた剣なんだ」
「そうなんだ」
「あぁ、全部整備に出す予定だから、その時に見せるよ」
「うん」
どうして今まで、師匠から貰った剣を見せてくれなかったんだろう。
まぁ、必要がなかったからだとは思うけど。
「あの剣、ちょっと恥ずかしいんだよな」
んっ、恥ずかしい?
剣なのに恥ずかしいってどういう事なんだろう。
あっ、あの師匠の事だ。
もしかしたら、普通とはちょっと違うのかもしれない。
……気になる。
「あとは、普通の弓も少し見ていこうか。それと、ナイフも数本買っていこう」
「ナイフ?」
お父さんの言葉に視線を向けると、お父さんは頷いた。
「あぁ、戦う為の武器ではなく、逃げる時間を稼ぐ為のナイフだ。捨てられた大地では何があるかわからないからな」
もしもの時、か。
「うん、わかった」