1146話 危険な激袋
1146話 危険な激袋
シュッ、パンッ。
矢が的の中心に当たる。
「お見事」
シファルさんの言葉に、私は頬が緩む。
「次」
「はい」
私は気持ちを落ち着かせ、矢を構えて、なるべく早く放つ。
シュッ、パンッ。
いつもの弓と新しい弓でそれぞれ1時間ほど練習すると、シファルさんが片手を上げた。
「よし、今日は終わり。お疲れさま」
「シファルさん、今日もありがとうございました」
シファルさんに向かって頭を下げると、肩をポンと叩かれた。
「矢が的に当たった時の音が変わった事に気付いたか?」
「うん。力強い音になった感じ」
「その通り。矢の速度が上がったからだ」
速度が上がったから、力強い「パン」という音がしたんだ。
確かに、的に刺さった矢が、以前に比べると深くなったもんね。
「魔物の骨を使用した弓はどうだった?」
「いつも使っている弓より引くのに力がいるみたい。でも、途中からすっと軽くなる感じがするの」
弓本体に魔力がいきわたっているからかな?
なんとなく不思議な感覚を覚える。
「そうか。使いにくい感じはないか?」
「うん。今までにない感覚だから、少し変な感じがするけど大丈夫」
私の返事に、シファルさんがホッとした表情をした。
「シファルさんは、魔物の骨を使用した弓は持っているの?」
「あぁ、持ってるよ。新しい弓が出ると聞いていたから、発売初日に手に入れたんだ」
そんなに早く手に入れていたんだ。
「それより今日はこれからどうするんだ? 冒険者ギルドへ行って依頼票の確認か?」
「今日は、冒険者ギルドへは行かないよ。お父さんが靴を新調しようって言ってくれたから靴屋さんへ行く予定」
「そうか。そう言えば、俺の靴も予備がなくなっていたな。一緒に行ってもいいか?」
シファルさんの提案に、私は頷く。
「いいよ。でも、お父さんにも確認は取ってね」
「わかった」
後片付けが終わり、弓を簡単にお手入れすると訓練室を出る。
そのまま食堂へ向かうと、お父さんがいた。
「お父さん」
「アイビー。今日の特訓、お疲れさま」
「ありがとう。何をしているの?」
お父さんの傍によって、お父さんの手元を見る。
「必要な物を書き出していたんだ」
「そうなんだ。あれっ? 食料がいつもより多いね」
書き出された内容を読んで、私は首を傾げる。
「捨てられた大地では、食料を得る事は難しい。だから、食料は今まで以上に用意が必要だと思ったんだ」
なるほど、確かにその通りだ。
「通信用マジックアイテム? これって、かなり高額だよね?」
回数制限はあるけど、すぐに知らせられる便利なマジックアイテムで、値段が高かった筈。
「そうだな。でも欲しいんだよな」
お父さんの言葉に、シファルさんが難しい表情をする。
「それは、無理かもしれないぞ」
お父さんがシファルさんを見る。
「捨てられた大地の異変がどれだけ深刻なのか、冒険者ギルドは既に把握している。そうなると、冒険者ギルドが通信用マジックアイテムを買い占めている筈だ」
「その可能性は考えたが、一応確認だ。あればいいな程度だよ」
シファルさんの説明に、お父さんは肩を竦めた。
「んっ? 激袋? ドルイド、こんな物を用意するのか?」
シファルさんが、お父さんが書き出した必要な物の一覧を見て、驚きの声を上げた。
「あぁ、激袋か。使い方によっては、結構役に立つぞ」
お父さんの言葉に、シファルさんが首を傾げる。
「そうか? まぁ、ある程度役には立つけど……」
シファルさんが首を傾げると、お父さんが足元に置いていたマジックバッグから激袋を1個取り出した。
「ここで中身を確認するなよ。確認する時は、外で周りに誰もいないか確認して、風の向きにも気を付けてくれ」
お父さんの説明を聞いて、シファルさんはおそるおそる激袋を手に取る。
「中身はなんなんだ? 俺が知っている激袋とはかなり違うみたいだけど」
「それは、俺の師匠が独自に配合した物を詰め込んだ激袋なんだ。通常の物より効果がある。ただ、人には使わないほうがいいと思う」
お父さんの言葉に、シファルさんは神妙な表情で激袋を見つめる。
「人には使うなって、体に害があるのか?」
「原料は、料理に使ったり、病気の時に飲む薬草などで全て食べられる物だ。だから体に害はないと思うんだけど……。もし、間違って吸い込んだら、数日苦しむだろうな」
「……本当に原料は、食べられる物なのか?」
不審げに聞くシファルさんに、お父さんが頷く。
「もちろん。ただ、通常は少量で使う薬草が大量に使用されていたり、薬草の効果を倍増させる薬草が限界量まで配合されているんだ。まあ、上位魔物にも効果が期待出来る激袋だって事だ」
「そうか。というか、こんな危ない激袋をいつ使うんだ?」
シファルさんの問いに、お父さんは少し考え込む。
「森の奥で、魔物から逃げる時に使うんだよ。かなり足止め出来る。あと、魔物の巣を混乱させる時にもお薦めだ」
「あぁ、なるほど」
お父さんの話を聞き終わると、シファルさんは興味深げに激袋を見る。
そして、窓から外を見た。
「試したいな」
「風向きに気を付けて、人が周りにいないか確かめてからだぞ」
お父さんの言葉に、シファルさんは頷く。
「わかった」
シファルさんが激袋を持って、少しソワソワする。
かなり珍しいシファルさんの様子に、私は思わず彼を凝視してしまった。
「ははっ。久々にわくわくしちゃって」
私の視線に気付いたシファルさんが、少し恥ずかしそうに言った。
「アイビー」
「お父さん、何?」
「前に渡した激袋は、そろそろ効果が薄れている筈だから新しいのに変えようか」
「うん、わかった。あとで、お父さんの部屋に激袋を持って行くね」
お父さんにそう言うと、必要な物を書き出した紙に視線を向ける。
「お父さん、まだ、書き出し中? もう、終わる?」
「もう終わった」
お父さんは紙をマジックバッグにしまうと、私とシファルさんを見た。
「靴屋さん、シファルさんも一緒でいい?」
「もちろん。行こうか」
お父さんと一緒に食堂を出て、ドールさんとフォリーさんに声を掛けてから、靴屋に向かう。
「シファル。何処かいい店を知らないか?」
「知っているけど、俺のお薦めの靴屋でいいのか?」
シファルさんの問いに、お父さんも私も頷く。
「わかった。大通りから少し横道に入ったところにある店なんだ。店主が女性なんだけど、元冒険者だから、俺たちが欲しいと思っている機能を良くわかっているんだよ」
「それは楽しみだな」
シファルさんの説明に、これから行く靴屋に興味がわいた。
「あそこだ」
シファルさんが指すほうを見ると、お父さんが少し驚いた表情をした。
「あの店、潰れてないか?」
お父さんの呟きに、私も頷く。
だって、店の看板は外れかけているし、窓にはヒビが入っている。
どう見ても潰れているようにしか見えない。
「はははっ、やっぱりそう見えるよな」
お父さんと私の反応に、シファルさんが笑い出す。
「大丈夫だ。あんな見た目の店だけど、潰れていないから安心してくれ」
シファルさんはそう言うと、店の扉を開ける。
すると「ぎぃい」という、なんとも言えない音がした。
「いらっしゃい」
お店の外観とは全く合わない、明るい声が聞こえてきた。
「お邪魔します。知り合いを連れてきたんですけど、いいですか?」
お店の中には、私達を見て微笑んでいる女性がいた。
この人が店主さんかな?
「まぁ、シファルさん。どうぞ。ゆっくり見て行ってくださいね」
お店の中に入ると、外観とは違い、商品棚には靴がきれいに並べられていた。
「外と中が全く違うのはすごいな」
お父さんの呟きに、シファルさんが笑う。
「アイビーはどんな靴が欲しいんだ?」
シファルさんの問いに、私は少し考える。
「長時間歩いても疲れにくい靴が欲しいかな」
捨てられた大地では、きっと長時間歩き回る事になるだろうから。
「わかりました。疲れにくい靴ですね」
店主さんの声に、驚いて彼女を見る。
「武器は何を使っていますか?」
「弓です」
店主さんは私の返事に頷くと、真剣な表情で靴を選び始めた。
「任せておくといいよ。アイビーに最適な靴を選んでくれるから」
シファルさんの説明に、私は頷いて店主さんを見つめた。