1147話 リュウの目撃情報
1147話 リュウの目撃情報
「ありがとうございました」
店主さんの言葉に、私もお礼を伝えて店を出る。
「本当にいい商品だったな」
お父さんの呟きに、シファルさんが笑顔になる。
「そうだろう? 店の外観からは全く想像できないだろう?」
「そもそも、どうしてあんな外観をしているんだ?」
お父さんの疑問に、私も頷く。
すごく靴にこだわっていたから、店にももう少しこだわったらいいのにな。
「好きな事だけに時間を費やしたいらしい」
シファルさんの説明に、お父さんが少し呆れた表情を浮かべた。
「そうだとしても、窓のヒビくらいは……」
お父さんの言葉に、ヒビ割れた窓を思い出し頷く。
窓から入る光で靴が傷むという考えから、窓には全て目隠しがされていた。
そのため、窓にヒビが入っていても店の中に影響はない。
でも、さすがにヒビくらいは直すべきだと思う。
「まぁ、俺もそう思ったから、店主に『直したほうがいい』と、言った事がある。他の客に言われているのも見た」
そうなんだ。
「でも店主曰く『窓の修理にお金を掛けるなんて無駄。そのお金で靴の機能を充実させるほうが、冒険者達もうれしいでしょう』と、俺も客も言われたよ」
それを言われてしまうと、何も言えないね。
大通りに出て、フォロンダ公爵の豪邸に向かっていると、慌てた様子の冒険者達が冒険者ギルドに入って行くのが見えた。
シファルさんとお父さんの足が止まり、冒険者ギルドへ視線を向ける。
「何かあったのかもしれないから、行ってみよう」
私の言葉に二人は頷くと、冒険者ギルドへ向かう。
中に入ると、冒険者ギルドの職員さん達が慌てていた。
「場所はどこですか?」
声に視線を向けると、先ほど慌てた様子で冒険者ギルドに入って行った冒険者達がいた。
「王都の門を出て右側に高い岩が連なっている場所、あそこだよ」
「あそこですか……王都からだと2時間くらいでしょうか」
「うん。そう」
冒険者達から話を聞いている女性を見て、私は首を傾げる。
どうして、ギルマスさんの補佐をしているシャーシャさんが話を聞いているんだろう?
それだけ重要な情報って事なのかな?
「情報をありがとうございます。あなた達は怪我などしていませんか?」
「大丈夫です。見た瞬間、すぐに隠れて、見つからないように逃げてきましたから」
冒険者達の会話を聞きながら、何を見たのか気になった。
お父さんとシファルさんも気になるのか、そっと彼らの様子を窺っている。
「わかりました。でも一応、医者の診察を受けてください」
シャーシャさんの提案に、冒険者達は頷き、救護室があるほうへ歩いて行った。
「シファルさん」
シャーシャさんはシファルさんに気付いていたようで、冒険者達が離れると、彼に声を掛けた。
「すみません。話が気になったもので」
シファルさんが小さく頭を下げると、シャーシャさんは首を横に振る。
「シファルさん、こちらへ。お二人もどうぞ」
私達がシャーシャさんの傍によると、彼女は真剣な表情をした。
「1匹のリュウが目撃されました。目撃した冒険者達の話では、落ち着いた様子だったそうです。でも、森にいる魔物達はピリピリしている状態の為、リュウにそれが伝わるかもしれません。これからリュウがどう動くのかわかりませんが、緊急事態が起こる可能性もあります。冒険者ギルドから集合が掛かった場合は、よろしくお願いします」
シャーシャさんが小さな声で説明すると、シファルさんとお父さんの表情が険しくなる。
「わかりました。情報をありがとうございます」
シファルさんがお礼を言うと、お父さんも小さく頭を下げた。
「いいえ、何かあったら本当によろしくね、という事だから、気にしないで」
シャーシャさんが笑って言うと、シファルさんが苦笑した。
「わかりました。仲間にも伝えておきます」
「はい。よろしくお願いします」
シャーシャさんはそう言うと、少し駆け足で冒険者ギルドの奥へ向かった。
「ギルマスへの報告と、これからの事だな」
シファルさんが呟くと、お父さんが少し考え込む。
「リュウの様子を見て来る依頼が出るんじゃないか?」
「そうなるだろうな。気になるのか?」
「うん」
シファルさんの問いに、私は無意識に頷いてしまう。
「えっ?」
「あっ」
シファルさんの驚いた表情に、私は自分が頷いた事に気付く。
「気になるなら、その依頼が出たら受けるか?」
お父さんの言葉に、私は少し考える。
リュウの事は気になる。
前に出会った、捨てられた大地から来たリュウの様子も知りたいし。
と言っても、目撃されたリュウはきっと別のリュウだろうけど。
「気になるけど、私で大丈夫なのかな? それに他の冒険者達も、その依頼を受けたいかもしれないよ」
「それはないと思う。普通、リュウに近付こうとする無謀な冒険者はいないから」
シファルさんの言葉に、私は首を傾げる。
それって、私が無謀って事を言っているのかな?
「アイビーを貶しているわけじゃないからな。普通、リュウと出会った冒険者は、命を落とす事が多い。ドルイドやアイビーように、目の前にいるのに、生き残れたのはすごい事なんだよ」
そうなんだ。
でも確かに、すごい強さを感じたよね。
特に後から来たリュウは、本当に強く、私たちなど一瞬で殺せると思う。
「『炎の剣』も、リュウから無事に逃げおおせた経験があるんだ」
シファルさんの言葉に、お父さんが驚いた表情をする。
「そうなのか?」
「うん。シャーシャさんは俺にわざわざ声を掛けたのも、その事を知っているからだと思う」
もしかしたら、リュウの様子を見て来る依頼は、『炎の剣』を指名した依頼になるかもしれないな。
「戻ろう。この事を、ランカ達に話しておかないと駄目だろうから」
シファルさんはそう言うと、冒険者ギルドの出入り口に向かった。
お父さんと私も、シファルさんの後に続く。
「おっと、悪い」
シファルさんが冒険者ギルドから出ようとすると、ちょうど入ってくる冒険者と肩がぶつかった。
「なんだシファルか。久しぶりだな」
男性の声に視線を向けると、テイマーのヒスさんだった。
「ウォン」
彼の足元から聞こえた鳴き声に視線を向けると、オビツネのコンがいた。
「久しぶりだな。少し休憩を取ると言っていたけど、もう仕事をするのか?」
シファルさんの問いに、ヒスさんが頷く。
「あぁ。俺としてはもう少し休みたかったんだけど、チョンが暴れまわりたいみたいでさ」
チョンは4mほどの大きさがあるバカスの事だよね。
あの子が暴れたい?
……ちょっと見てみたい気もするな。
すごく迫力がありそうだから。
「そうなのか。大変だな」
「んっ? 大変ではないぞ。『行ってよし』というだけで依頼達成する事が多いから」
ヒスさんの説明に、シファルさんが呆れた表情をする。
「それはどうなんだ?」
「いや、俺が手を貸すほうがチョンはやりにくいんだよ。俺の動きをいちいち確認してから動かないと、俺が怪我をするから」
そうなんだ。
あ~でもわかるかも。
私がシエルの手伝いをしようとしても、絶対に邪魔にしかならないと思う。
それなら、見守っているだけのほうがシエルの為になるもんね。
「あぁそういう事か」
シファルさんも気付いたのか、納得した様子で頷いた。
「それより何かあったのか?」
いつもより騒がしい冒険者ギルド内を見て、ヒスさんが首を傾げる。
「リュウが目撃されたんだ」
シファルさんの説明に、ヒスさんが真剣な表情をする。
「リュウか。最近の森は、落ち着かないな」
ヒスさんの呟きに、シファルさんとお父さんが頷いた。