1150話 ソラのようなスライム
1150話 ソラのようなスライム
シュッ、パンッ。
シュッ、パンッ。
シュッ、パンッ。
10本の矢がほとんど的の真ん中に刺さった。
その結果を見て、私は少し驚き、そしてうれしくなった。
「お見事」
お父さんの声に笑って頷くと、私は的に向かって駆け出す。
「すごい。全部的に当たった。しかもほぼ真ん中だ!」
矢を速く放つ練習では、これまで的に当たる確率は8割くらいだった。
その中で、真ん中に当たるのは10本中2本か3本だった。
でも今日は、すべてがほぼ真ん中に刺さっている。
「アイビーは、捨てられた大地に行くと決意してから、的に当たる確率も、真ん中に刺さる確率も上がっているな」
シファルさんの言葉に、私は首を傾げる。
「えっ、そうだっけ?」
「気付いていなかったのか?」
シファルさんが不思議そうな表情で私を見る。
「うん」
最近、少し上達したような気はした。
でも、目標はシファルさんだから、まだまだだと思っていた。
「そうか。アイビーは、ここ数日だけでもかなり上達しているよ。自信をもっていい」
「そうなんだ。うん、ありがとう。あっ、ありがとうございます」
普通に話してしまった。
まだ練習中だったのに。
「今日は終わろうか」
「今日もありがとうございました」
シファルさんの言葉に、私は彼に頭を下げる。
そして的に当たった矢を回収する。
「あれ? 深い」
的に当たった矢を抜こうとして手を止める。
ほかの矢は昨日と同じくらいなのに、1本だけ深く刺さっている。
これも練習の成果なのかな。
深く刺さった矢を抜くと、その矢をギュッと握る。
この調子で頑張れば、捨てられた大地で足手まといにならずにすむかな?
使用した弓と矢の手入れをして、食堂へ行く。
食堂に入ると、ジナルさんがお茶と甘味を楽しんでいた。
「ジナル、久しぶりだな」
お父さんが声を掛けると、彼は私達に片手を上げた。
「久しぶり。ちょっとアイビーに相談があるんだ。いいかな?」
ジナルさんの真剣な表情に、私は神妙に頷く。
「はい。どうしたんですか?」
私はジナルさんの前の席に座ると、彼を見つめる。
「ソラ達に協力してもらいたいんだ」
ソラ達に?
「もしかしてポーションが足りてないんですか?」
結構な量のポーションを渡しているけど、足りないのかな?
「あっ、それは大丈夫。あのポーションは1本で複数人を助けられるから」
「そうですか、良かった」
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
「ぺふっ」
食堂にソラ達が入ってくる。
「ソラ、フレム、ソル。今日は、もう終わり?」
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
「ぺふっ」
「今日もありがとう。無理はしないでね」
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
「ぺふっ」
ソラ達はポーションや魔石作りをやめるように言ってもやめないので、作る個数を決めた。
そうしないと、ソルが鍵を開けて部屋に入り、勝手に作ってしまうから。
まさか、たった数秒で鍵を開けられるなんて……。
「何かあるのか?」
私とソラ達の様子を見たジナルさんが首を傾げる。
「ソラ達も準備をしているんだ」
お父さんの言葉に、ジナルさんがお父さんを見る。
「準備って?」
「捨てられた大地へ行く準備だよ」
お父さんの説明に、ジナルさんが驚いた表情を見せた。
「そうか」
「それで、ジナル。ソラ達へのお願いってなんなんだ?」
「あぁそうだった。ソラみたいに透明な青色のスライムが目撃されたんだ」
「「えっ」」
ジナルさんの言葉に、私とお父さんは小さな声を上げた。
「ソラに似た色? つまり治療が出来るスライムって事か?」
お父さんの問いに、ジナルさんが首を横に振る。
「わからない」
「わからない?」
私がジナルさんの言葉を繰り返すと、彼は私を見て頷いた。
「2日前に、捨てられた大地の傍で青色のスライムが目撃された。フォロンダ公爵から、ソラのような透明のスライムらしいから、俺に確かめて欲しいと連絡がきたんだ」
ジナルさんの説明を聞きながらソラを見る。
ソラは、ジナルさんの話を聞いているように、彼をジッと見つめていた。
「会いに行って驚いたよ。本当に、ソラみたいに透明な青色のスライムだったから」
ソラの仲間だ。
会ってみたいな。
「すぐにフォロンダ公爵に報告をして、2人のテイマーに来てもらった。テイムが出来るか確かめる為にな」
「うん、それで」
お父さんが話を促すと、ジナルさんがなんとも言えない表情を見せた。
「テイマー達が触っても嫌がる様子ではなかったから、2人のうちどちらかがテイム出来ると思ったんだ。でも、駄目だった」
「駄目?」
私が問うと、ジナルさんが肩を竦めた。
「触らせるし、抱っこも出来た。でもテイムは嫌がったんだ」
そうなんだ。
抱っこまでさせてくれるなら、テイム出来そうなのに。
「そこで、アイビーに頼みたいんだ」
「もしかしてアイビーにテイムして欲しいのか?」
「ぷぷっ!」
お父さんの言葉に、ソラが怒ったような鳴き声を上げた。
「えっ、ソラ。テイムは駄目なの?」
「ぷっぷぷ~」
ソラの返事に私はジナルさんを見る。
あれ?
ジナルさんは私ではなくソラ達に協力して欲しいと言ったよね。
という事は、テイムをして欲しいとは思っていないのでは?
「テイムをして欲しいんじゃないんだ」
やっぱり違った。
「見つけたスライムなんだけど、フォロンダ公爵に『テイムは無理だった』と報告に行こうとしたら、俺に付いてきてしまったんだ」
「ジナルさんに?」
「そう。俺はテイマーではないし、テイムは無理だと言っても付いてくる。様子を見ていると、俺に何かして欲しいみたいなんだけど、それが何かわからない。それでソラ達に協力してもらって、見つけたスライムが何を要求しているのか知る事が出来ないかなって思って……」
「そういう事か。でも、ソラ達が協力してもわかるとは限らないぞ」
お父さんの指摘に、ジナルさんは笑って頷く。
「それはわかっている。ただ、1度だけでもいいから試してもらえないかな? 頼む」
ジナルさんが私に向かって頭を下げる。
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
「ぺふっ」
私はソラ達を見て微笑む。
「ソラ達が『いいよ』と言っているみたいなので、協力します」
「ありがとう。ソラ達もありがとう」
ジナルさんがソラ達にお礼を言うと、なぜか3匹が胸を張った。
「ぷっ、可愛いな」
ジナルさんはそう言うと、ソラ達の頭を順番に撫でた。
「これから、見つけたスライムのところへ行ったほうがいいか?」
お父さんの問いに、ジナルさんが申し訳なさそうな表情をした。
「助かるよ。でもここで大丈夫だ」
「えっ、何処にいるんだ?」
お父さんが聞くと、ジナルさんが肩から下げていたバッグをテーブルに置いた。
「ここだ」
「えっ。連れてきたのか?」
話を黙って聞いていたシファルさんが、驚いた声を上げた。
「あぁ、俺の後を追って来たと言っただろう?」
ジナルさんはバッグを開けると、中を見た。
「出ていいぞ」
ジナルさんの言葉に、バッグから出てきたのは、ソラより一回り小さい、透明な青色のスライムだった。
「本当に透明なんだな」
シファルさんが、そっとスライムに近付く。
「ソラより小さいね」
私がソラを見て言うと、ソラはジッと同じ色のスライムを見た。
そして、プルプルと震えると、私を見た。
「どうしたの?」
「ぷっぷ~」
ソラは1度鳴くと、私をチラチラ見ながら食堂を出て行く。
「追って欲しいみたい。行ってくるね」
私は、ソラを追って食堂を出る。
そしてソラの後をついて行くと、ゴミの入ったマジックバッグが積まれている部屋に入った。
「ソラ。どうしてここに来たの?」
部屋に入ると、ソラはマジックバッグの上を跳びはねていた。
「これが必要なの?」
「ぷっぷぷ~」
「わかった」
ゴミの入ったマジックバッグを持つと、ソラと一緒に食堂に戻る。
「アイビー? それは、ゴミの入ったマジックバッグか?」
お父さんが不思議そうな表情で聞く。
「うん、これが必要なんだって」
私は透明な青色をしたスライムの傍にマジックバッグを置く。
そして、中から劣化した青のポーションを出した。
「見ているな」
お父さんの言葉に、テーブルに乗っているスライムを見る。
確かに青のポーションをジッと見つめている。
「食事はあげなかったのか?」
お父さんがジナルさんを見る。
「最初に5本はあげたけど、そのあとはあげていないな」
マジックバッグから出した青のポーションをテーブルに並べると、スライムはジナルさんを見た。
「どうぞ」
ジナルさんが笑って言うと、スライムは青のポーションを食べ始めた。
「これって、俺にポーションを要求していたって事なのか?」
ジナルさんの小さな呟きに、皆が首を傾げた。