1153話 それぞれの指名依頼
1153話 それぞれの指名依頼
弓の特訓が終わり、休憩の為に食堂へ向かう。
食堂に入ると、ランカさんが真剣な表情で手紙を読んでいた。
「ランカ、何かあったのか?」
一緒に食堂へ来たシファルさんが、ランカさんを不思議そうに見る。
「ジナルから手紙が来たんだけど、あのスライム、冒険者達からポーションを貰っては、キラキラ光るポーションを作っているみたいよ」
「ソラ達を見ているとポーション作りはそれほど負担ではないみたいだから、あのスライムにとっては、ご飯がどんどん出てくるから最高の場所なのかもしれないな」
ランカさんの言葉を聞いたシファルさんが、スライムの気持ちを想像する。
「そうかもしれないわね。だって、もう1匹、現れたそうだから」
「えっ、透明な青色のスライムがもう1匹?」
ランカさんの呟きに、私は思わず声を上げる。
「そうみたいよ。ジナルの手紙には『手紙を書いていると冒険者達が騒がしくなった。何があったのか確かめると、透明な青いスライムが2匹になっていた。さすがに他の冒険者達と騒いでしまったよ』と書いてあるから」
透明なスライムって、レアだったよね?
「アイビー、休憩が終わったら冒険者ギルドへ行こうか」
お父さんが食堂へ入ってくると、私の傍に来る。
「うん。お待たせ」
弓の特訓時間があるから、冒険者ギルドへ行くのが遅くなってしまうんだよね。
お父さんは気にしなくていいと言ってくれているけど、ちょっと気になる。
「私達も一緒に行くわ。リュウの様子を見に行く依頼が出ているかもしれないから」
「ラットルア達に声を掛けてくるよ」
ランカさんの言葉に、シファルさんが食堂を出て行く。
「わかった。ソラ達は、まだあっちの部屋か」
お父さんが、ソラ達がポーションや魔石を作っている部屋のほうを見る。
「うん。今日の分を作っているんだと思う。ポーションと魔石、いくつ作ったら満足するんだろうね」
「そうだな。まだ当分は無理じゃないか?」
ソラ達の様子を思い出し、お父さんが苦笑する。
「やっぱり、ソラ達の様子を見ていたら、そう思うよね」
お父さんと食堂を出てソラ達がいる部屋に向かうと、ソラ達がちょうど部屋から出てくるところだった。
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
「ぺふっ」
「にゃうん」
「皆、今日もお疲れ様。これから冒険者ギルドへ行くけど一緒に行く?」
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
「ぺふっ」
「にゃうん」
「じゃ、行こうか」
皆の答えを聞いて、お父さんと私は玄関に行く。
ランカさん達は、既に玄関のところにいたので、皆で冒険者ギルドへ向かう。
貴族達の豪邸が並ぶ場所から大通りへ出ると、お店から元気な声が聞こえてきた。
その、いつもの大通りの様子に、私はなんとなくホッとする。
リュウの事や魔物の咆哮など、いろいろな事が立て続けに起きているから心配なのだ。
冒険者ギルドに入ると、私達の姿を見たギルド職員が、慌てた様子で奥へ走って行くのが見えた。
「あんなに慌てて……もしかして指名依頼が出ているのかしら?」
ランカさんが慌てた様子で走って行くギルド職員を見て、小さな声で呟く。
「その可能性が高そうだな。奥に向かった職員が『指名』と書かれた書類を手に握っていたから」
ヌーガさんが賛同すると、ランカさんはうれしそうな表情をした。
「ランカ、うれしそうだな」
ランカさんの様子に、ラットルアさんが呆れた様子を見せる。
「だって、指名依頼は報酬が高額じゃない。どうせリュウの様子を見に行く依頼があったら受けるつもりだったんだから、同じ仕事をするなら報酬は高いほうがいいでしょ?」
ランカさんの言葉に、ラットルアさんとヌーガさんは肩を竦めた。
「リュウの様子を見に行く依頼じゃなかったらどうするんだ?」
シファルさんの問いに、ランカさんが眉間に皺を寄せる。
「それは考えていなかったわ。ん~、依頼内容によるわね」
「すみません。ランカさん、ドルイドさん、指名依頼が出ているので、こちらへお願いします」
冒険者ギルドの奥から出てきたシャーシャさんが、ランカさんとお父さんに声を掛ける。
「全員で話を聞いていいかしら?」
「かまいません。どうぞ」
ランカさんの問いにシャーシャさんは頷くと、冒険者ギルドの奥へ通された。
会議室と書かれた部屋に入ると、王都周辺の地図が広げられていた。
「ランカさんとドルイドさんにそれぞれ指名依頼が出ています。なるべく受けて欲しいと思っています」
シャーシャさんの説明に、お父さんは首を傾げる。
「それぞれ別の依頼という事ですか?」
「はい、そうです。『炎の剣』には、リュウが目撃された周辺の調査をお願いします。リュウがいた場合はその様子も見てきてほしいです。『星』には、縄張りから出てしまった迷子の魔物を、縄張りまで誘導してほしいです」
縄張りから出てしまった迷子の魔物の誘導?
初めて受ける依頼だけど、大丈夫かな?
「私達は問題ないけど、ドルイド達は大丈夫?」
ランカさんの問いに、お父さんは頷く。
「俺は似たような依頼を受けた事があるから大丈夫だ。それに、シエルがいるから、この依頼に俺達を指名したんだろう」
「にゃうん」
黙って話を聞いていたシエルが、お父さんの言葉に賛同するように鳴く。
その様子を見ていたシャーシャさんが、シエルを見つめて頷いた。
「そうです。シエルがいてくれるので、魔物を誘導できると考えました。アイビーさん、お願いできますか?」
「はい。わかりました」
お父さんが大丈夫だと言ったし、それにシエルがやる気になっているからね。
「リュウの目撃場所はこちらです。そして、迷子の魔物が目撃された場所はこちらです」
シャーシャさんは、ランカさん達に王都から右側にある岩が連なっている場所を地図上で指す。
そしてお父さんと私には、王都から右側にある、岩が連なった場所の傍の川を指した。
「迷子の魔物ですが、種類はグルバルです」
グルバル?
お父さんと初めて会った時に、凶暴化して問題になっていた魔物だ。
「王都周辺にいるグルバルは、岩山のふもとにある湖周辺に群れで生活しています。この間の魔物の咆哮で混乱したのか、3匹か4匹が川に移動してしまったようです。この川にいるグルバルを湖まで誘導して欲しいです。もし凶暴化している場合は、討伐をお願いします」
「向かう方向が同じね。アイビー、ドルイド、途中まで一緒に行かない?」
ランカさんが私を見る。
「うん。お父さんもいい?」
お父さんを見ると、笑って頷いた。
「依頼を受けていただきありがとうございます。では、ランカさんとドルイドさんは書類を確認後、問題がなければ名前の記入をお願いします」
依頼内容と報酬についての書類を、ランカさんとお父さんがそれぞれ読む。
お父さんは書類を読み終えると、私に書類を差し出した。
「問題ないか、アイビーも確認してくれ」
「わかった」
お父さんから書類を受け取り、内容を確認する。
報酬の高さにちょっと驚いたけど、お父さんに向かって頷いた。
「お父さん、問題ないよ」
「わかった」
お父さんが書類に名前を書くと、シャーシャさんに渡した。
ランカさんも書類を確認すると、名前を書き込みシャーシャさんに渡した。
「ランカさん、シファルさん、ラットルアさん、ヌーガさん」
シャーシャさんの呼び掛けに、ランカさん達が視線を向ける。
「相手はリュウです。決して無理はしないようにしてください。そして、危険だと判断したらすぐに退避して、無事に帰ってきてくださいね」
「「「「わかりました」」」」
ランカさん達は、シャーシャさんの言葉に真剣な表情で頷いた。
「さてと、行きましょうか」
ランカさんは真剣な表情を笑顔に変えると、お父さんを見た。
「あぁ、行こうか」
お父さんが私を見る。
私は肩から下げていた大量の矢が入っているマジックバッグを持ち直すと頷いた。
王都を守る門番さんに挨拶すると、森へ出る。
「時間的に、少し急いで岩山に向かったほうがよさそうね。行くわよ」
ランカさんが歩き始めると、シエルが先頭を歩き出す。
「シエル、途中までよろしくね」
「にゃうん」