LNCrawler

1154話 アイビーが感じた気配

最弱テイマーはゴミ拾いの旅を始めました。 — ncode.syosetu.com · All chapters

1154話 アイビーが感じた気配

少し急ぎ足で目的の場所へ向かっていると、森にいる魔物の気配がいつもと違うと感じた。

「お父さん、魔物の気配がいつもと違うね」

「そうだな、ここ数日の出来事で少し興奮しているのかもしれないな」

興奮している魔物は、通常とは異なる動きをする事があると、お父さんが教えてくれた。

「こういう時は、いつもより注意が必要なんだよね?」

「あぁ。いつもだったら、人の気配を感じたら逃げる魔物が、襲って来る事もあるからな」

「混乱状態で狂暴化してしまう魔物もいるしな」

シファルさんの言葉に、お父さんが頷く。

「そうだな。魔物が興奮していると感じた時は、いつもより魔物との距離を取るようにしておく事が重要だ。距離があれば、色々な事に対応出来るからな」

「うん、わかった」

お父さんとシファルさんの話に頷くと、森にいる魔物の気配を探った。

「にゃうん」

急にシエルが警戒した様子で鳴くと、全員の足が止まる。

そして、それぞれが武器を手にした。

「シエル、どうしたの?」

ランカさんが、少し前を歩いているシエルを呼ぶ。

シエルはチラッとランカさんを見ると、前方に向かって「シャー」と威嚇した。

「何かいるみたいだけど、何かわかる?」

ランカさんが私達に向かって声を掛ける。

「いや、魔物の気配は遠いから、この辺りにはいないと思うんだけど……」

ラットルアさんが、周りを見渡しながらランカさんに伝える。

「俺も同じだ。シエルが何に反応しているのかわからない」

シファルさんも首を傾げる。

「俺もだ。というか、この辺りにきてから、魔物の気配が遠ざかったんじゃないか?」

ヌーガさんの指摘に、ランカさんが神妙な表情で頷いた。

「えぇそうね。ドルイドは、どう?」

「俺も、この近くに魔物はいないと思う。それと、ヌーガの言う通り、俺達の様子を窺っていた魔物がこの辺りにきてから離れたな。アイビーはどうだ?」

「私は……」

魔物の気配は確かに遠ざかった。でもそれ以上に、シエルが見ているほうに何かいるような気がする。

知っているけど、知らないような気配?

「アイビー、どうした?」

お父さんが心配そうに私を見る。

シファルさんもチラッと私を窺った。

「シエルが見ているほうに、知っている気配を感じるの。でも、まったく知らない気配にも感じて……」

今の説明では、何もわからないよね。

でも、どう言えば伝わるだろう?

「あっ、わかった。木の魔物、木の魔物の気配だ。あれ、でも……」

木の魔物の気配とは別に、よく似ているけど違う気配が混ざりあっているみたい?

「アイビー?」

お父さんが周りを警戒しながら、私の肩に手を置く。

「大丈夫か?」

「うん、大丈夫。木の魔物の気配だけじゃなくて、別の気配が混ざり合っているような気がして」

「どういう事だ?」

お父さんの問いに、私は肩を竦める。

「説明が難しいんだけど、木の魔物の気配と、木の魔物と似ている気配が混ざり合っているような気がするの」

私の話を聞いたお父さんが首を傾げる。

説明って難しい。

「とりあえず、気配を感じたほうに行きましょう。アイビー、木の魔物がいる方向がどちらかわかる?」

「にゃうん」

ランカさんの問いに、私ではなくシエルが答える。

「シエルが教えてくれるの?」

「にゃうん」

シエルは警戒した様子を見せながら、ゆっくりと左側の森へ進む。

私達は、ランカさんを先頭に、シエルの後を追う。

「にゃうん」

シエルが異変を感じてから10分ほど森の中を歩いていると、シエルの足が止まった。

「魔物が争った跡なのかしら」

シエルが教えてくれた場所は、木々がなぎ倒され、その一部が燃え、地面に大きな穴が開いている場所だった。

「被害の大きさから、かなり大きな魔物が暴れたみたいだな」

シファルさんの言葉に、ランカさんが険しい表情を浮かべる。

「リュウが目撃された場所からは少し距離があるけど、リュウが暴れた可能性はあるかしら?」

ランカさんの問いに、シファルさんとヌーガさんが、周りを少し調べて回る。

私は、地面に開いた穴から感じる気配に、眉間に皺を寄せた。

やっぱり間違いない、木の魔物の気配だ

「お父さん、あの穴から木の魔物の気配を感じるんだけど……」

地面に開いた大きな穴を指して、お父さんを見る。

「あの穴の中から?」

お父さんが私を見る。

「うん」

「わかった。少し中の様子を見てみよう」

お父さんが剣を鞘から抜く。

「私も行く」

私は弓に矢をつがえる。

「わかった。少し後ろからついてきてくれ」

お父さんが武器を構えると、ゆっくりと地面に出来た穴に近付く。

「ドルイド。俺も一緒に行くよ」

私とお父さんの会話を聞いたラットルアさんが、お父さんと一緒に穴に近付く。

「ラットルア、どうしたの?」

お父さん達の行動に気付いたランカさんが、ラットルアさんに声を掛ける。

「アイビーが、あの穴から木の魔物の気配を感じるみたいなんだ」

「えっ?」

ラットルアさんの説明に、ランカさんが首を傾げる。

その様子から、ランカさんが木の魔物の気配を感じていない事に気付く。

そう言えば、どうして誰も穴の中から木の魔物の気配がするって言わなかったんだろう?

さっきは気付かなくても、目の前にある穴からだから気付いていると思ったのに。

もしかして?

「お父さん」

「どうした?」

「穴の中から木の魔物の気配を感じてる?」

私の問いに、お父さんが首を横に振る。

「俺には何も感じない」

やっぱり。

「ラットルアさんも?」

ラットルアさんを見ると、彼は頷いた。

「うん。でもアイビーが嘘を吐くわけがないから、きっと木の魔物はいると思うよ」

私を信じてくれたから、気配を感じないのに調べようとしてくれているのか。

「ありがとう」

私がお礼を言うと、お父さんとラットルアさんは頷いた。

穴にかなり近付くと、不快な臭いがした。

「くさいな」

お父さんの呟きに、ラットルアさんが頷く。

「そうだな。何かが腐っているみたいだ。アイビー、鼻と口を布で覆ったほうがいい」

お父さんとラットルアさんは、布で鼻と口を覆い、頭の後ろで布を結んだ。

「わかった」

私も急いで鼻と口を布で覆い、両手が空くように頭の後ろで布を結ぶ。

「アイビーは少し離れた場所で待機してくれ」

「うん」

お父さんの指示に従って、穴から少し離れた場所で足を止める。

「うわっ。何? すごくくさいわね」

ランカさん達が私の傍に来ると、慌てて鼻と口を布で覆った。

シファルさんとヌーガさんも、嫌そうな表情をしながら同じように布で鼻と口を覆う。

「何かいるな」

穴の中を覗き込んだお父さんの言葉に、ラットルアさんがマジックバッグからマジックアイテムの灯りを取り出すと、穴の中を照らした。

「これは……」

お父さんが何か見つけたようで、小さな声が聞こえた。

「お父さん、木の魔物はいた?」

「いたけど、既に死んでいる」

えっ、死んでいるの?

私、死んでいる木の魔物の気配を感じ取れたって事?

今まで、そんな事はなかったよね。

「アイビー、生きている魔物はいない。ただし、ちょっと酷い状態だ。見るなら覚悟してくれ」

お父さんの言葉に、私は真剣に頷くと、お父さんの隣に向かった。

穴の中を覗くと腐敗臭が濃くなり、少し気持ちが悪くなる。

気持ち悪さをこらえて穴の中をよく見ると、木の魔物がいた。

「木の魔物から出てるあれは何?」

視界に入った木の魔物は、全身から青い液体のような物が流れ落ちていた。

そして、ところどころ焦げているようなところもあった。

「わからない。でも、良い物ではないだろうな」

私の問いに、お父さんが眉間に皺を寄せて答える。

「木の魔物の全身に文字や絵の跡が残っているわ。おそらく魔法陣ね」

ランカさんが穴の中にいる木の魔物を見て、魔法陣の痕跡がある場所を指す。

「冒険者ギルドに報告したほうがいいだろうな。それに、全部は無理でも、あの液体や焦げている部分。魔法陣の痕跡も出来るだけ持って帰ろう」

シファルさんの言葉に、全員が頷くと、木の魔物の死骸からいろいろな物を採取していく。

「腐敗臭は、この液体が原因みたいだ。瓶の蓋を閉めたのにすごいくさい」

ラットルアさんが液体を採取した瓶を持って、顔を歪める。

「木の魔物の一部も採取出来たぞ。それと、焦げた部分と魔法陣の痕跡がある部分だ。これ以上は無理だ、木の魔物が崩れ始めた」

「わかったわ。採取は終わりにしましょう」

ヌーガさんの報告にランカさんはそう言うと、採取した物を空いているマジックバッグに全て入れる。

「これで臭いは少しマシかしら?」

「既に俺達の服に、臭いが移っていると思うぞ」

ランカさんの言葉に、お父さんが指摘すると彼女は嫌そうな表情をした。

「やっぱり?」

「間違いなく」

お父さんが頷くと、ランカさんは自分の服の臭いを嗅いで、溜め息を吐いた。