1156話 出番なし!
1156話 出番なし!
「黒い石を回収出来たぞ」
お父さんとヌーガさんが私達の傍に来る。
ヌーガさんは、穴の中から回収してきた黒い石を手に握っていた。
「ヌーガ。それ……触って大丈夫か?」
シファルさんが黒い石を見た瞬間、嫌そうな表情を浮かべた。
ランカさんも神妙な表情で黒い石を見つめる。
「……たぶん、大丈夫だ」
ヌーガさんが少し不安そうに黒い石を見つめる。
「気持ち悪いよな。見た目は普通の黒い石なのに、なんとなく嫌な感覚がする」
お父さんの言葉に、皆が頷く。
「ソラ、フレム、ソル」
お父さんの呼び掛けに、3匹がお父さんを見る。
「これ、触っても大丈夫か?」
お父さんが、ヌーガさんの持っている黒い石を指すと、ソラ達の視線が黒い石に向く。
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
「ぺふっ」
3匹の鳴き声に、ヌーガさんがホッとした表情をする。
「良かった」
「皆、ありがとう」
私がソラ達にお礼を言うと、ソラ達は胸を張った。
その姿に思わず笑ってしまう。
「ドルイド」
「なんだ?」
ランカさんの呼び掛けにお父さんが視線を向ける。
「それぞれの依頼を終わらせに行きましょうか。急がないと、今日中に終わらないかもしれないわ」
ランカさんの言葉に、お父さんは頷く。
「そうだな。それより、体は大丈夫か?」
お父さんの問いに、ランカさんは肩を竦める。
「大丈夫よ、フレムのお陰ね」
ランカさんが笑って答えると、少し強い風が吹いた。
「ねぇ。今の風……」
ランカさんの呟きに、お父さんが森を見渡す。
「いつもと違ったな」
お父さんの言葉に、ランカさん達が頷く。
風がいつもと違う?
私はお父さんの言葉を聞き、風に意識を向ける。
「違う?」
私には、特にいつもと変わらない風だと感じるけど、何が違うんだろう?
「そうだ、アイビー」
お父さんが私を見る。
「何?」
「木の魔物の気配はもう感じないか?」
木の魔物の気配は、穴の中にいた木の魔物が燃えてしまったからか、今はもう感じない。
「うん。感じない」
「そうか。という事は、死んでいた木の魔物の気配をアイビーは感じたんだな」
そういう事になるね。
でも、死んでいた木の魔物の気配なんて、どうしてわかったんだろう?
それに、気配の中に感じた違和感。
あれはなんだったんだろう?
「そろそろ移動しましょう」
ランカさんが、お父さんと私を見る。
「そうだな。アイビー、行こう」
「うん」
ランカさん達と一緒に岩山の近くまで来ると、それぞれの依頼を終わらせる為に別れる。
「気を付けて」
お父さんの言葉に、ランカさん達が笑って頷く。
「危険を感じたら、すぐに引き返すから大丈夫よ」
ランカさんはそう言うと、岩山に向かった。
「行こう、川はあっちだ」
「うん」
グルバルが目撃された場所に行くと、4匹のグルバルの姿が見えた。
「いたね。少し興奮しているみたい」
「縄張りから出てしまったから、落ち着かないんだろう。シエル、湖のあるほうへグルバルを誘導してくれるか?」
「にゃうん」
シエルはグルバルを見ると、たのしげに尻尾を揺らす。
そして、お父さんの問いに1度鳴いた。
「アイビー。逃げ出したグルバルが、湖のほうにちゃんと向かうように、逸れたら少し脅して進む方向を修正させるんだ」
お父さんは説明をしながら、4つの丸いマジックアイテムを取り出す。
「これは光を出すマジックアイテムだ。道を逸れそうになったら、これをグルバルの足元にたたきつけてくれ」
「わかった。ソラ達は、一度バッグに戻ってくれる?」
ソラ達に小声で言うと、ソラ達はすぐにバッグに入ってくれた。
私とお父さんは、グルバルを左右に挟むように移動する。
そして位置に着くと、私はシエルに合図を送る。
「にゃうん」
シエルのいつもより低い鳴き声が聞こえると、グルバルが慌てた様子で湖のほうへ走り出した。
私とお父さんは、グルバルの左右を走り、シエルはグルバルを追いかけるように走る。
少し走ると、1匹のグルバルが右に逸れそうになったので、マジックアイテムを構える。
でも、シエルが速度を上げ、右側に姿をチラッと見せると逸れそうになっていたグルバルが湖に向かった。
何度かシエルがグルバルの進む方向を修正していると、湖が見える。
そして湖の傍にはたくさんのグルバルがいた。
「止まれ」
お父さんの言葉に足を止めると、グルバルは仲間達の元へ迷わず走って行った。
「お疲れさま」
お父さんが私の傍に来ると、ポンと肩に手を置く。
「お父さん」
「んっ?」
「私達、必要だった?」
追う速度も、逸れそうになったグルバルの軌道修正も完璧だったシエル。
正直、私達の出番はなかった。
「はははっ。シエル、お疲れさま」
お父さんは私の問いに笑うと、傍に来たシエルの頭を撫でた。
「にゃうん」
しばらくグルバルの様子を見て問題がないと判断すると、来た道を戻る。
「お父さん、王都のグルバルは群れで行動するんだね。オール町では、異常な状態だったから群れていたみたいだけど」
「王都周辺にいる魔物がグルバルより強いから、生き残る為に群れで行動するようになったんだろうな」
環境に合わせたって事か。
ランカさん達と別れた場所まで来ると、岩山のほうを見る。
「少し待ってみる?」
お父さんは私の問いに首を横に振る。
「探しているのはリュウだからな。今日中に戻ってこられるのか怪しいと思うぞ」
「えっ、ランカさんは今日中に帰ってくるつもりだったと思うけど……」
「そうだけど。木の魔物の事で1時間以上時間を取られたからな」
あぁ、それがあったね。
「先に王都に戻ろう」
「うん」
王都に向かって歩き始めると、木の魔物の気配を感じて足を止めた。
「これは、木の魔物の気配か?」
今度はお父さんも感じたのか足を止め、木の魔物の気配を感じた方向を見た。
「お父さん、白い花が咲いている木の傍にいるよ」
私達から少し距離がある場所に咲いている白い花。
その木の傍に、こちらを見ている木の魔物がいた。
「こっちを見ているな」
「うん」
私は、木の魔物に向かって手を振る。
木の魔物は、それに応えるように木の枝を揺らした。
「答えてくれた」
木の魔物の行動にホッとしていると、木の魔物は移動を始めた。
私達は、木の魔物の姿が見えなくなると、王都に向かって歩き始めた。
「あの木の魔物、後ろの部分が黒くなっていたね」
「そうだな」
王都まであと半分というところまで戻って来た時、後ろから大きな鳴き声が聞こえた。
慌てて振り返ると、空にリュウの姿が見えた。
「リュウだ」
捨てられた大地のほうへ飛んで行くリュウを見て、私は思わず呟く。
「帰るみたいだな」
「うん」
ランカさん達の仕事は無事に終わりそうだね。
「戻ろう」
「そうだね」
王都に戻り、冒険者ギルドへ行くと、リュウの鳴き声のせいで冒険者達が騒がしかった。
その様子を見ながら、カウンターへ行く。
「少しお待ちください」
お父さんと私の姿を確認したギルド職員さんが、奥へ駆けて行く。
すぐに戻って来たギルド職員さんは、お父さんと私を会議室へ案内してくれた。
「こちらで少しお待ちください」
「ありがとう」
案内してくれたギルド職員さんに、お父さんがお礼を言うと、彼女はうれしそうに笑った。
私は会議室にある椅子へ座り、バッグを開ける。
「寝ているのか?」
お父さんは、会議室の窓を開けながら私を見る。
「うん」
王都に帰ってくる途中にバッグを開けても、ソラ達は熟睡中で出てこなかった。
そろそろ起きるかと思ったけど、まだ熟睡中みたいだ。
「お待たせしました。んっ?」
シャーシャさんは会議室に入って来た瞬間、動きを止め、私達を見た。
「すみません。臭いと思いますが我慢してください」
「まさか、何かあったのですか?」
お父さんの言葉にシャーシャさんは頷くと、私達の前に座って尋ねた。
「ありました。簡単に報告はしますが、詳しい話はランカ達が帰ってきてからでいいですか?」
「わかりました」