1157話 不安? 苛立ち?
1157話 不安? 苛立ち?
最初に、グルバルの依頼が無事に終了した事をシャーシャさんに伝え、依頼達成の手続きをする。
それが終わると、途中で見つけた穴と木の魔物について簡単に報告した。
「わかりました。回収した物などは『炎の剣』が持っているんですね」
シャーシャさんの質問に、お父さんが頷く。
「はい」
木の魔物から回収した体の一部や黒い石はシファルさんが持っているからね。
「わかりました。では、『炎の剣』が戻ってくるまで休憩をしていてください。彼らが戻ってきたら、再度話を聞きたいと思います」
シャーシャさんはそう言うと、会議室を出て行った。
ギルマスさんへ報告かな。
私達が冒険者ギルドにきてから約1時間後、私達を案内してくれたギルド職員さんが、ランカさん達を会議室まで連れて来た。
「こちらへどうぞ」
「早いな、もう少し掛かると思ったんだけど」
お父さんの呟きに、私は頷く。
「みんな、お疲れ様」
ランカさん達が会議室に入ってくると、私はみんなに向かって手を振る。
「アイビーも、お疲れ様」
ランカさんが少し疲れた表情で私の隣の椅子に座る。
ラットルアさん達は、私達の向かい側の椅子に座った。
「どうだった?」
目の前に座ったラットルアさんが私を見る。
「シエルが頑張ってくれたので無事に終わったよ。というか、私もお父さんも一緒に走っているだけって感じだった」
私の説明に、ラットルアさんが楽しそうに笑う。
「ラットルアさん達も無事に依頼達成だよね」
「リュウが捨てられた大地へ戻って行くのを確認したから、達成と言えるかな。そうだ、リュウが飛んでいる姿は見えた?」
ラットルアさんが少し興奮した様子を見せる。
「うん、見た。かっこよかったね」
大空を自由に飛ぶ姿を思い出して、私は頷く。
「飛び立つところを近くで見たんだけど、すごく迫力があったぞ」
「そうなんだ」
コンコンコン。
「失礼いたします」
シャーシャさんが会議室に入ってくると、ランカさん達が無事だった事にホッとした表情を浮かべた。
「リュウの目撃情報があり心配していましたけど、問題はなかったみたいですね」
「はい。我々の姿をリュウは見ましたが、攻撃する事なく捨てられた大地のほうへ飛び去りました。そのまま捨てられた大地へ戻ったのですか?」
ランカさんの問いに、シャーシャさんは頷く。
「はい。ここに来る前に確かめてきました。リュウは無事に捨てられた大地へ戻りました。リュウが岩場にいた原因はわかりましたか?」
シャーシャさんが真剣な表情をすると、ランカさんは申し訳なさそうな表情で首を横に振る。
「リュウがいた周辺を調べましたが、わかりませんでした」
「そうですか、わかりました」
シャーシャさんは、持っていた書類に何かを書き込むと、ランカさんに渡した。
「まずは依頼達成の手続きを終わらせましょう」
「わかりました」
シャーシャさんから書類を受け取ったランカさんは、書類の内容を確かめると名前を書き、シャーシャさんに書類を渡す。
「ありがとうございます。それで、ドルイドさんから簡単に話は聞いたのですが、詳細をお願いできますか?」
「えっ? ドルイドからも詳細を聞けたでしょう?」
ランカさんがお父さんに視線を向けると、お父さんは肩を竦めた。
「回収した物を見せて説明したほうがいいと思って」
「そう?」
ランカさんは少し不思議そうな表情でシファルさんを見る。
「シファル、回収した物を出して」
「わかった」
ランカさんの言葉にシファルさんは頷くと、マジックバッグを開けた。
「待て」
お父さんがシファルさんの行動を止めると、布を取り出す。
「回収してから時間が経っているから大丈夫だとは思うが、一応着けたほうがいいと思うぞ」
お父さんの言葉にシファルさんは頷くと、マジックバッグから新しい布を取り出し鼻と口を覆うと、頭の後ろで結んだ。
「シャーシャさんも、お願いできますか?」
「感情に影響を及ぼした原因が、回収してきた物に含まれている可能性が高いからですね」
お父さんから話を聞いていたシャーシャさんは、シファルさんが持っているマジックバッグを見る。
「はい。おそらく腐敗臭がする物が原因だと思いますが、別の物の可能性もあります」
「わかりました」
シファルさんの説明に、シャーシャさんは神妙に頷くと、ポケットから布を取り出し、鼻と口を覆った。
全員が、鼻と口を布で覆うのを確認したシファルさんは、マジックバッグから回収した物を取り出す。
シャーシャさんは回収した物を1つ1つ手に取って確かめると、紙に何かを書き込む。
そしてランカさんとお父さんから詳しい話を聞くと、それも紙に書き込んでいく。
「これが問題の物だ」
シファルさんが、最後に腐敗臭がする木の魔物の一部が入った瓶を取り出す。
「うっ。蓋を閉めているのに、すごい臭いですね」
シャーシャさんは顔を歪めながら瓶を手に取ると中身を確認する。
「確かに、見ていると怒りとまではいきませんが、苛立ちに近い感情がわきますね」
シャーシャさんの言葉に、ランカさんが首を傾げる。
「苛立ち? 私は苛立ちではなく不安を感じたんですが……」
ランカさんがシファルさん達に視線を向ける。
「俺は不安を覚えたな。ヌーガとラットルアはどうだ?」
シファルさんの問いに、ラットルアさんとヌーガさんが少し考え込む。
「俺は、シャーシャさんと一緒で苛立ちを感じたと思う」
ラットルアさんが言うと、ヌーガさんも頷く。
「俺も同じだ。ドルイドはどうだった?」
ヌーガさんがお父さんを見る。
「俺は不安のほうだ」
皆、不安か苛立ちのどちらかを感じたんだ。
「アイビーはどうかしら?」
ランカさんの問いに、私はシャーシャさんが持っている黒い石を見る。
そして首を横に振った。
「私は何も感じないの」
ヌーガさんが黒い石を持ってきた時も、今も、黒い石からは何も感じない。
「そうなの?」
私の返事に驚いた表情を見せるランカさん。
「うん。不安も苛立ちも感じない」
「そうなの、不思議ね?」
ランカさんの呟きにシャーシャさんは頷くと、紙に書き込んだ。
「あと、木の魔物を燃やすと出てきた、黒い石も回収しました」
ランカさんはそう言うと、別のマジックバッグから黒い石を取り出した。
「それだけ別に持ってきたんですか?」
シャーシャさんの問いに、ランカさんが頷く。
「はい。この黒い石、なぜか嫌な印象が強いんです。だから別に持ってきました」
「ありがとうございます」
シャーシャさんは、ランカさんから黒い石を受け取ると、まじまじと見つめる。
「私は嫌な印象は受けませんが、出てきた時には嫌な印象を受けたんですね?」
シャーシャさんの問いに、ランカさん達が頷く。
「わかりました」
シャーシャさんは黒い石を見て頷くと、マジックバッグに回収した物を全て入れた。
「報告が以上であれば、今日はここまでにしましょう。あとはこちらで詳しく調査いたします。報告と回収をありがとうございました。情報料はそれぞれのチームリーダーの口座に入金しておきます。あと、今回の問題の調査結果が出ましたら、ご報告いたしましょうか?」
シャーシャさんの問いに、ランカさんとお父さんが頷く。
「気になるので、お願いします」
「俺も、お願いします」
「わかりました。では、今日は本当に助かりました」
シャーシャさんは私達に向かって小さく頭を下げると、鼻と口を布で覆ったまま、会議室を出て行った。
「私達も帰りましょうか。早くお風呂に入って、この臭いを洗い流したいわ」
ランカさんが鼻と口を覆ていた布を取って袖の臭いを嗅ぎ、嫌そうな表情で呟く。
「そうだな。さすがに、この臭いはちょっとな」
シファルさんも鼻と口を覆っている布を取って服の臭いを嗅ぐと、溜め息を吐いた。