1158話 影響は、皆にあった
1158話 影響は、皆にあった
「アイビー、おはよう」
食堂に入ると、ランカさんが朝ご飯を食べていた。
「ランカさん、おはよう。ラットルアさん達はまだ寝ているの?」
「いいえ、ラットルアとヌーガは走り込みに行ったわ。シファルは、昨日の木の魔物が気になるみたいで、冒険者ギルドへ調査結果を聞きに行ったわ」
えっ、シファルさんはもう冒険者ギルドへ行ったの?
まだ、朝の7時前なんだけど……。
ランカさんの前の席に座ると、ドールさんがすぐに朝ご飯を持ってきてくれた。
「アイビー様、おはようございます」
「ドールさん、おはようございます。朝ご飯、ありがとうございます」
私がお礼を言うと、ドールさんがうれしそうに微笑んだ。
「アイビー、臭いは消えた?」
温かなスープを飲んでいると、ランカさんが私を見た。
「うん、大丈夫だと思う。でも昨日は、臭いが気になって髪も体も3回も洗ってしまった」
「それ、私もよ。2回洗って、もう大丈夫だと思うんだけどなんとなく臭うような気がしてね」
ランカさんの言葉に、私も同じだと頷く。
「服は処分する事にしたんだけど、アイビーはどうするの?」
「えっ? 洗って着るつもりだけど、捨ててしまうの?」
ランカさんを驚いた表情で見ると、彼女は神妙な表情で頷いた。
「洗っても臭いが消えるか心配だし、それに感情に影響を及ぼした事が気になってね」
ランカさんは影響を受けてしまったから心配なんだ。
それに服に付いた臭いか……洗ったら消える筈だよね。
「それにしても、腐敗臭で不安や苛立ちの感情を引き起こすなんて、どうやっているんだろうね」
私の問いに、ランカさんも不思議そうに首を傾げる。
「それね、あれから私もいろいろ考えてみたんだけど……もしかしたら腐敗臭が原因ではなく、木の魔物のどこかに感情を揺さぶる原因があったかもしれないわよね。その原因が青い液体のような物を生み出した。もしくは原因となった物が溶け出して、あの青い液体のような物になったのかもしれないわ」
なるほど、そう考える事も出来るのか。
「木の魔物を全て回収出来ればよかったんだけどね」
ランカさんの呟きに、私は頷く。
「アイビー、ランカ。おはよう」
「ぷっぷぷ~」
お父さんがソラと一緒に食堂へやってくる。
「ドルイド、おはよう」
「お父さん、おはよう。ソラと一緒だったの?」
「俺が食堂に行こうと部屋から出たら、ちょうどソラもアイビーの部屋から出てきたんだよ」
「そうなんだ」
私が起きた時は、ソラ達はまだベッドの上で眠っていた。
朝ご飯に行こうと誘っても3匹とも起きなかったからちょっと心配だったんだけど、大丈夫そうかな。
昨日、穴の中の木の魔物と遭遇してから、皆はいつもと違った。
バッグに入ると早々に眠ってしまったし、夕ごはんも少し食べて、また眠ってしまったのだ。
だから、今日も様子がおかしかったら、お父さん達に相談しようと思っていた。
「ソラ、おはよう」
「ぷっぷぷ~」
「昨日は眠そうだったけど、今日は元気?」
「ぷっぷぷ~」
私の問いに、ソラは元気に答える。
「ソラの様子を見る限り、大丈夫そうだな」
どうやらお父さんも昨日のソラ達の様子に気付いていたみたいだ。
「うん。いつものソラだね」
「ぷっぷ~」
ソラは私に向かってぴょんと1度飛び跳ねると、そのまま食堂を出て行こうとする。
「ソラ、何所へ行くの?」
「ぷっ?」
私の問いに、不思議そうな表情を見せるソラ。
「あれ? 私、おかしな質問をしたかな?」
「もしかして、昨日はあまり食べていなかったからお腹が空いているんじゃないか?」
「ぷっぷぷ~」
お父さんの言葉に、ソラは元気に反応する。
「そっか。それなら好きなだけ……いつもの量を食べていいよ」
好きなだけという言葉は危険だ。
危なかった。
「ぷっぷ~」
「てっりゅりゅ~」
「ぺふっ」
私が言い換えた事に気付いたソラが、少し不服そうに鳴くと、フレムとソルが元気に食堂に来た。
「フレム、ソル。おはよう」
「てっりゅりゅ~」
「ぺふっ」
フレムとソルも元気に答えると、ソラを見た。
「てりゅ?」
「ぷっぷぷ~」
「ぺふっ!」
何を話し合ったのか、3匹はうれしそうに食堂を出て行く。
その様子を見送っていると、ドールさんがお父さんの朝ご飯を持ってきた。
「ドルイド様、おはようございます。どうぞ」
「ありがとう」
お父さんはドールさんにお礼を言うと、パンに手を伸ばした。
「そう言えば、ラットルア達はどうしたんだ?」
お父さんは手を止めると、ランカさんを見る。
「ラットルアとヌーガは走り込みに行ったわ。シファルは、冒険者ギルドに調査結果を聞きに行っているの。ごちそうさま」
「そうか。何かわかっていればいいが……」
お父さんはそう言うと、勢いよく食べ始めた。
「お父さん、昨日の夕飯はいつもより食べなかったよね」
お父さんの食べっぷりを見ながら呟くと、お父さんが少し驚いた表情を見せた。
「そうだったか?」
「うん。気付いていなかったの?」
私の問いに、お父さんが頷く。
「ドルイドもなのね」
「えっ?」
ランカさんの呟きに、お父さんが彼女を見る。
「ランカもだったのか?」
「そうなのよ。ドールさんに教えてもらったんだけど、昨日の夕飯は皆、食べる量が少なかったみたいなの。腐敗臭をずっと嗅いでいたから、そのせいなのかと思ったんだけど、それなら食べる量が少なかった事に自分で気付けるはずでしょう?」
ランカさんの説明に、お父さんは朝ご飯を食べながら考え込む。
「原因は、昨日の木の魔物かもしれないな」
お父さんの呟きに、ランカさんが頷く。
「そうかもしれないわね」
私とお父さんが朝ご飯を食べ終わる頃、ソラ達が満足そうな表情で食堂に戻って来た。
「ソラ、フレム、ソル」
お父さんは3匹の様子を見て、少し呆れた表情を浮かべる。
「ぷぷっ?」
お父さんの呼び掛けに返事をするソラ。
フレムとソルも、お父さんを見た。
「いつもより多く食べてきただろう?」
「「「……」」」
お父さんの問いに、ソラ達が視線を逸らす。
さっき、3匹で何か話し合っていたけど、いつもより食べようという相談だったのかな?
「まぁ、昨日の夜はあまり食べていなかったからな。仕方ないか」
「ぷっぷぷ~」
お父さんの言葉に賛同するようにソラが鳴くと、フレムとソルが何度も頷いている。
「ソラ、フレム、ソル」
お父さんが少し真剣な表情でソラ達を呼ぶ。
ソラも、お父さんの雰囲気が変わった事に気付いたのか、真剣な表情でお父さんを見た。
「昨日の事だけど、穴に近付かなかったのは、木の魔物が危険だと知っていたからか?」
お父さんの問いに、ソラ達が少し考える。
そして、3匹で体を左右に揺らした。
「木の魔物が危険だとは知らなかったのか?」
「てっりゅりゅ~」
フレムの返答に、お父さんが神妙な表情で頷く。
「でも、穴に近付かなかったのは、危険だと思ったからだよな?」
「ぷっぷぷ~」
今度はソラが返事をする。
あの穴を危険だと感じたけど、木の魔物に危険を感じなかった?
でもヌーガさんが穴を調べて、特に異常がなかったと言っていたから、穴に問題はなかった筈だよね。
「もしかして、穴の中に木の魔物がいると思わなかったの?」
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
「ぺふっ」
私の問いに、3匹が同時に鳴く。
「そうなんだ」
私が感じ取った木の魔物の気配に、ソラ達も気付かなかったのか。
やっぱりあれは、別の気配を、木の魔物の物だと勘違いしたのかな?
でも、あの時の事を思い出してみたけど、木の魔物の気配で間違いないと思うんだよね。
「ソラ、フレム。ソル。治療までは必要なかったけど、俺やシファル、ヌーガにも影響があったのか?」
昨日、皆が夕飯をいつもより食べなかったから、何か影響があったのかを聞いたんだろうな。
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
「ぺふっ」
3匹の返事に、お父さんは眉間に皺を寄せた。