1160話 戦時中に作られたマジックアイテム
1160話 戦時中に作られたマジックアイテム
「「「ただいま」」」
食堂にランカさん達の元気な声が響いた。
「おかえりなさい。ラットルアさん、ヌーガさん、おはよう」
「「アイビー、おはよう」」
さっぱりした表情のラットルアさんとヌーガさんに声を掛けると、2人は笑顔で挨拶を返してくれた。
「アイビー、今日の特訓はもう終わったのか?」
ラットルアさんの問いに、私は頷く。
「うん、ラットルアさんは……随分と気分が良さそうだね」
楽しげに笑っているラットルアさんに、私は首を傾げる。
「走っている時に、何かいい事でもあったの?」
私の問いに、ラットルアさんが首を横に振る。
「特に何もなかったけどな。あぁでも、久しぶりに走って気分がすっきりしたのかもしれない。アイビーも走ってきたらどうだ?」
そう言えば、弓の特訓を中心にしているから、ここ最近は走っていない。
体力を維持する為には走る事も重要だから、あとで走ってこようかな。
「走るのか?」
「うん。お父さんも一緒に走る?」
「そうだな、一緒に走るか」
私とお父さんの会話を聞いていたランカさんが、お父さんに視線を向ける。
「ドルイド、シエルも一緒に走ったほうがいいわよ」
「にゃうん?」
ちょうど食堂に来たシエルが、ランカさんを見て不思議そうに鳴く。
「アイビーが走る時は、シエルを護衛に付けたほうがいいよって話していたのよ」
ランカさんの言葉に、シエルは私の傍に来た。
「シエル、おはよう。一緒に走ってくれるの?」
「にゃうん」
シエルもソラ達と同じように、昨日の夜から少し眠そうだった。
朝も、顔を上げて挨拶をしてくれたけど、またすぐに眠った。
「ありがとう。シエルはもう眠たくない?」
「にゃうん」
「ソラ達も昨日眠そうだったわよね。あれも、影響を受けた結果だったのかしら」
ランカさんの呟きに、私はシエルを見る。
「アイビーに影響はなかったんだよな」
お父さんの問いに、私は頷く。
「アイビーと俺達との違いはなんだろう」
お父さん達とシエル達は影響を受けたのに、私は影響を受けなかったから、どこかに違いがある筈なんだよね。
私にあってお父さん達にはない?
もしくはお父さん達にあって私にはない……あっ!
「もしかして、魔力かな?」
私の魔力はないわけではないけど、とても少ない。
でも皆の魔力はとても多いから、この違いで、影響の受け方に違いが生まれたのかもしれない。
私の言葉に、皆の視線が集まる。
「それはあるかもしれないわね。魔力に影響を及ぼすマジックアイテムについては、ギルド職員をしている時に、何度も聞いた事があるわ」
ランカさんの呟きに、私は驚く。
何度もって、そんな怖いマジックアイテムが何度も見つかっているという事かな?
「ただいま。皆が集まっているけど、何かあったのか?」
シファルさんが食堂に入ってくると、不思議そうに私達を見る。
「シファル、おかえり。昨日の事を話していたのよ。それで、冒険者ギルドから何か聞き出せた?」
ランカさんの問いに、シファルさんは少し疲れた表情を見せた。
「あぁ、聞いてきたけど……」
「どうしたの?」
ランカさんが心配そうにシファルさんに声を掛けると、彼は椅子に座って溜め息を吐いた。
「あの黒い石のような物は、調べようとした瞬間、爆発したそうだ」
シファルさんの言葉に、皆が驚きの表情を浮かべた。
「怪我人は?」
「いない」
お父さんの問いに、シファルさんは首を横に振る。
「そうか、良かった」
お父さんがホッとした様子で呟くと、シファルさんがマジックバッグから数枚の紙を取り出した。
「あの石について、その可能性があるという情報があったんだ」
「そうなのか?」
ラットルアさんがシファルさんを見ると、彼は紙をめくって頷く。
「あの黒い石は、負の遺産。戦時中に作られたマジックアイテムだ」
えっ、あの黒い石が?
ヌーガさんが持っているのを近くで見たけど、マジックアイテムにはまったく見えなかった。
「どうして木の魔物から出てきたのか、それは不明だ。でも、あの木の魔物があのマジックアイテムに影響を受けていた可能性があると俺は思う」
あんな小さなマジックアイテムが、木の魔物に影響を与えた?
「マジックアイテムの情報があったという事は、前にも何かあったのか?」
ヌーガさんの問いに、シファルさんは持っていた数枚の紙をランカさんに渡した。
「俺達が見つけたマジックアイテムだが、王都の傍で発見された事があるんだ。そのマジックアイテムのせいで、人も魔物も沢山死んでいる」
「えっ、人も?」
シファルさんの説明に、お父さんが驚いた声を上げる。
「あのマジックアイテムは、魔力の流れを狂わせる。そのせいで魔物も人も凶暴化するか、無気力になったそうだ。凶暴化した場合は死ぬまで狂ったように暴れ、無気力の場合は食事もしなくなり餓死すると書いてあった」
もしかしてドールさんが言っていた、感情を揺さぶるマジックアイテムの事かな?
「そうみたいね。この書類、あのマジックアイテムに関する詳細な資料ね。持ってきて大丈夫だったの?」
ランカさんは書類を読み終わると、お父さんに渡した。
「原本を複写した物をギルマスがくれたから問題ない。おそらく、あのマジックアイテムの恐ろしさを俺達に知っておいてほしいんだろう」
シファルさんの説明に、ランカさんが頷く。
「かなりひどいマジックアイテムだな。こんな物が人によって作られたなんてな」
お父さんが溜め息を吐き、ラットルアさんに書類を渡す。
ラットルアさんは書類を読むと顔を歪め、ヌーガさんは読み進めるとお父さんと同じように溜め息を吐いた。
「読むか?」
ヌーガさんが私を見る。
「うん」
ヌーガさんから書類を受け取り、内容を確かめる。
そこには、魔物がどれだけの期間狂っていたかや、人が影響を受けた場合についてなど、詳しく書かれていた。
そして一度影響を受けると、確実に死ぬと書かれていた。
「死ぬ……ランカさん達は大丈夫なんだよね?」
私は心配になり、ランカさんとラットルアさんを見る。
お父さん達も影響は受けたけど、治療が必要だったのは2人だけだ。
「フレムが治療してくれたから大丈夫だと思うわよ。暴れまわっていないし、無気力にもなっていないわ」
そう言えばそうだね。
暴れていないし、さっきまで走っていたんだし。
「良かった。恐ろしいマジックアイテムだね」
お父さんが言う通り、こんなマジックアイテムを人が作りだしたんだよね。
戦時中で敵を倒す為とはいっても、このマジックアイテムは味方も巻き込む可能性がある。
それもわかったうえで作ったのかな?
もしそうだとしたら、悲しいな。
「それと、あの木の魔物だけど、捨てられた大地から出てきた可能性が高い」
「えっ?」
シファルさんの言葉に、私は彼を見る。
「そしてリュウは『あの木の魔物を探していたのかもしれない』と、ギルマスが言っていた」
「どういう事なの?」
シファルさんの話に、ランカさんが困惑した表情を浮かべる。
「数日前、捨てられた大地で大きな穴を見つけた。その穴を調べると、王都側にある岩山に向かって地下道が出来ていたそうだ。そしてその地下道を調べると、あちこちから木の魔物の痕跡が見つかった。でも途中で地下道が崩れ落ちていた為、地上から木の魔物を探したらしい。もう少しで、俺達が木の魔物を見つけた場所というところでリュウを目撃した。リュウと遭遇するのを避ける為、木の魔物の捜索はいったん中断したそうだ。そしてもう一度、探そうと予定を組んでいたら、俺達が冒険者ギルドに『穴の中に、木の魔物を見つけた』と報告したんだ」
あの木の魔物が、捨てられた大地から来ていた。
もしかして、木の魔物がおかしくなるのは、黒い石に見えるマジックアイテムが原因なのかな?