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1164話 歌に物語

最弱テイマーはゴミ拾いの旅を始めました。 — ncode.syosetu.com · All chapters

1164話 歌に物語

「もしかしたら関係があるかもしれない話を知っている」

師匠さんの言葉に、お父さんは首を傾げる。

「それは、どういう意味ですか?」

シファルさんの問いに、師匠さんは彼を見る。

「俺達は上位冒険者になり、ある程度名前が知られるようになってから王都に来た。目的は、捨てられた大地について調べる為だ。地元のオール町周辺では、ほとんど情報を集められなかったからな」

師匠さんの説明に、マルアルさんが頷く。

「オール町で捨てられた大地の事を調べると、なぜか『未知の大地』という名前が出て来るんだよ。しかも、その場所には凶暴な魔物がいて冒険者でも入れないという。魔物の話から、そこが捨てられた大地だと思うのに、なぜか未知の大地だと言われている。正直、混乱したよな。捨てられた大地なのか未知の大地なのか。それとも王都には両方あるのかって」

マルアルさんの話に、師匠さんが少し嫌そうな表情をする。

「王都に来て調べたら、未知の大地の奥に捨てられた大地がある事を知って、どうしてそんなややこしい事になっているのか不思議だった。まさか、集まらなくなった冒険者達を集める為に『未知の大地』などという名前を作ったとは思わなかったからな」

フォロンダ公爵は、捨てられた大地を隠す為に未知の大地が作られたと言っていたけど、どちらが本当なんだろう?

「王都に出て、捨てられた大地について調べていると、冒険者ギルドに呼び出され止められた。理由を聞くと『教会に興味を持たせない為に』と言われた。確かに、教会の連中が勢力を伸ばしている時期だったからな。でも俺達は、どうしても知りたいとお願いして、捨てられた大地から溢れる魔物を討伐する任務に就かせてもらったんだ」

「えっ、師匠さん達はその任務に就いていたんですか?」

お父さんが驚いた声を上げると、師匠さんが笑って頷く。

「あぁ、この時期に俺達はかなり強くなったよな。捨てられた大地から溢れてくる魔物は、王都周辺に出る上位魔物よりはるかに強かったから」

「そうだな。何度、死を覚悟した事か」

師匠さんの言葉に、タンバスさんが少し疲れた表情で呟く。

「そんなに捨てられた大地の魔物は強いんですか?」

師匠さん達の話を聞きながら不安に駆られた私は、思わず師匠さんに聞いてしまう。

「あぁ、強い。でも冒険者ギルドは、冒険者達を死なせない為に、冒険者一人ひとりが力をつけられるように勉強会や師匠制度を取り入れた。それが冒険者達の底上げになった。だから今の上位冒険者達は、捨てられた大地から出て来る魔物に対応出来るようになっている。ギリギリだけどな。でも、この冒険者達の底上げは、捨てられた大地にいる魔物対策ではないだろうけど、いい結果をもたらしてくれたよ」

冒険者一人ひとりが力をつける為に、師匠さんがいるんだ。

知らなかった。

「捨てられた大地から溢れる魔物の討伐を行いながら、俺達は出来る限りあの場所の事を調べた。でも、今わかっている事以上の新たな事実はわからなかった。魔物が異様に強い事、皮膚が非常に硬い事。そして、急に暴走状態になる事。あっ、最後のこれはマジックアイテムや魔法陣が影響しているとわかったな」

今わかっている事とあまり変わらないのかもしれないな。

「討伐任務に就いて3年目に、引退した元冒険者が俺達に会いに来た。その人は、俺達と同じ討伐任務に就いていたんだが、大怪我を負って引退していた。そんな人が俺達に声を掛けた理由がわからなかったんだが、話を聞くと『捨てられた大地について新しい事がわかったかもしれない』と言うんだ。だから詳しく話を聞く事にした。その時は、捨てられた大地の調査に限界を感じていたから」

師匠さんの言葉に、タンバスさんが頷く。

「彼は冒険者を引退後、昔から伝わる歌や物語に興味を持ったらしく、旅をしながら調べたそうだ。そして、どの村や町にも似た歌と物語がある事に気付いた。その1つは歌で『黒の旅人が来たぞ。逃げろ~、逃げろ~。白の旅人が来たぞ。隠れろ~、隠れろ~。旅人来たら箪笥の中へ、洞窟の中へ、黒い花が咲いたなら、川へドボン。泳いで泳いで、さようなら』。この歌を教えてくれた人によると、ずっと昔から伝わっている歌だそうだ。ただ、少しずつ形が変わってしまったとも言っていたらしい。もう1つは物語で『小さな女の子が1人で森を歩いています。両親には、一人で森に行ってはいけないと言われていたけど、可愛い動物を見かけて、つい追いかけてしまったのです。その小さな女の子、森の中で旅人達を見かけます。両親に、旅人を見かけたら隠れろ、逃げろと言われていたので、傍にあった木の隙間に入り込みジッと隠れます。旅人達は小さな女の子に気付く事なく、両親がいる村のほうへ行ってしまいました。小さな女の子は、旅人達の姿が見えなくなるまでジッと待ち、そして木の隙間から出てきました。小さな女の子は、旅人達のいた場所が気になってしまいました。そっと近付くと、小さな女の子は土の中に落ちてしまいます。小さな女の子が目を覚ますと、目の前には化け物がいました。小さな女の子は必死に逃げます。石段を上がり、扉を開け、そして何とか逃げて両親の元へ。でも村には誰もいませんでした。ただ大地が真っ赤に染まり、ところどころに黒い花が咲いていたのでした』という話だったそうだ。こちらも少しずつ物語の内容が変わっているという話だった」

タンバスさんが教えてくれた歌も物語も、何処か怖いな。

それに、物語のほうは少し違和感があるんだけど……あっ、土の中に落ちた筈なのに石段に扉ってどういう事だろう?

これが変わった部分なのかな?

「彼が言うには、村や町によって黒の旅人と白の旅人が、あっちからくる旅人、こっちからくる旅人に変わっていたりするそうだ」

タンバスさんの説明に、師匠さんが頷く。

「オール町にも昔、俺達の師匠だった人の祖母が、似た歌を聞かせてくれた事があった。ただ、その歌は、王都で聞いた歌と少し違った部分がある。『黒の旅人が来たぞ。逃げろ~逃げろ~。白の旅人が来たぞ。隠れろ~隠れろ~。旅人が土から出てきたら、化け物が復活するぞ~。何度も何度も、さようなら』というものだった」

王都の歌とは確かに違う。

旅人が土から出てきたらって……待ち伏せでもしていたって事?

それにしても、どうして「旅人」はそんなに恐れられていたんだろう?

「歌にも物語にも出て来る旅人ですが、誰の事を言っているのかわかっているのですか?」

不意に聞こえたヌーガさんの声に視線を向けると、ヌーガさんとラットルアさんがいた。

「ヌーガさん、ラットルアさん、おかえり」

「「ただいま」」

私の挨拶に、ヌーガさん達が笑顔になる。

「モンズさん、お久しぶりです。それで、旅人は誰なんですか?」

ヌーガさんの問いに、師匠さんは首を横に振る。

「この旅人というのは、昔の物語や歌にたびたび出て来る事がわかっている。そして、旅人が出て来る歌や物語には、必ず「逃げろ」や「隠れろ」という言葉が登場する。だから、元冒険者の彼は、不審者や犯罪者の事を旅人と言っているのかと考えたそうだ。でも、ラトト村から見つかった文献に、『黒の兵が来るぞ、逃げろ~、子を連れて行かれるぞ。白の兵が来るぞ、隠れろ~、皆殺されるぞ』という言葉が洞窟の奥に刻まれていたと記されていた。その事で彼は、旅人は戦時中の兵と呼ばれる存在だとわかった。そして、歌と物語が、戦時中から伝わってきた可能性があると考え、彼は再び各地にある歌と物語を調べ直したそうだ」

師匠さんの説明に、皆、真剣な表情で考え込む。

「黒、白……もしかして敵と味方を表しているんでしょうか? 子供を連れて行く味方の兵、皆を殺しに来る敵の兵とか?」

シファルさんの呟きに、マルアルさんが「おそらく」と呟く。

「そして彼はラトミ村で、ある文献を見つけた」

えっ、ラトミ村?

私の生まれた村だよね。

「『白い兵が黒い花をばらまいている。皆、おかしくなった。皆、おかしくなった。黒い兵が、父ちゃん連れてった。土掘れ、もっと掘れ、化け物が隠れるぞ。黒い花枯れた。でも化け物が目を覚ますと花咲かす。黒い花見つけたら、逃げろ、逃げろ。あれは、皆を狂わせる』という内容だった。これは、ラトミ村に昔あった洞窟の奥に刻まれていた言葉だそうだ。そして彼は、その隠れた化け物が、今も捨てられた大地に影響を与えているのではないかと考えたんだ」