1169話 招集
1169話 招集
シャーシャさんが予想した通り、翌日に上位冒険者達に招集が掛かった。
覚悟はしていたので、準備した物を持ってフォロンダ公爵の豪邸を出る。
肩から下げたマジックバッグの紐をギュッと握っていると、恐怖と緊張で手がかすかに震えていた。
お父さんは、そんな私の様子に気付くと、頭を優しく2回撫でた。
「怖かったら、後方支援をしたらいいから」
「うん。でも、大丈夫」
黒くなって死んでいった木の魔物を思い出した。
教会との戦いでも、王都でも、木の魔物はいつだって私達を守ってくれていた。
何より、私達人間が作ったマジックアイテムによって狂わされる魔物を、これ以上増やしたくない。
人間が作った物なのだから、私達が後始末をしなければ駄目だと思う。
ポケットにある小さな巾着をギュッと握る。
この巾着には、トロンが亡くなった場所で見つけた小さな石と、もう一つのよく似た石が入っている。
2つの石を握り、小さく深呼吸をする。
「私も、お父さんと一緒に捨てられた大地へ行くからね」
正直怖い。
でも、トロンが私を守ってくれたように、私もトロンの仲間を守りたい。
「皆さん、お気を付けて」
玄関で、ドールさんとフォリーさんが小さく頭を下げる。
「お世話になりました。行ってきます」
「行ってらっしゃいませ。あっ、向こうでまた会うでしょうが、その時はよろしくお願いしますね」
んっ?
ドールさんの言葉に、代表で挨拶をしたランカさんが首を傾げる。
「やっぱり、来るんですね」
シファルさんは予想していたのか、笑って呟く。
「えぇ、王都を守るのが我々の仕事です。そして危険を排除する為には、後方で指示を出しているだけでは駄目だと判断しました」
「そうですか、では、またあとで会いましょう」
ランカさんがそう言うと、ドールさん達は笑って頷いた。
ドールさん達に手を振って、冒険者ギルドを目指す。
「お父さん、これから冒険者ギルドへ行くの? それとも、捨てられた大地へ行くの?」
「冒険者ギルドで登録してから、捨てられた大地へ向かう事になる」
お父さんの答えに私は頷くと、傍を歩くシエルとソラ達を見る。
「にゃうん?」
私の視線に気付いたシエルが、私を見ると不思議そうに鳴く。
そのいつもと変わらない様子に、緊張がほんの少し和らぐ。
「何でもないよ。良い天気だね」
王都は12月でも温かい。
時々冷たい風が吹くけれど、今日は日差しが気持ちいい。
「こんな日は、のんびりしたくなるわよね」
ランカさんの呟きに、ラットルアさんが頷く。
「広場でお昼を食べて、そのままお昼寝。贅沢な1日になりそうだよな」
確かにお昼を食べてお昼寝する日は、贅沢な1日だろうな。
「いいわね~」
ランカさんの呟きに、シファルさんが疑わしい視線を向ける。
「ランカはどんどん依頼を受けて来るが、そんな贅沢な日を作ってくれる気はあるのか?」
「あるわよ。でも、今はまだ若いから稼ぎ時! だから先の話ね」
「贅沢な1日は、どれくらい先の話なんだ?」
シファルさんがランカさんを見ると、彼女は少し考える。
そして、パッと表情を明るくするとシファルさんを見る。
「15年後よ! 私が冒険者を引退するつもりの50歳になってからね」
「遠すぎるわ! そんなに依頼を詰めなくても、それなりに稼いでいるだろうが!」
ランカさんの答えに、ラットルアさんが声を上げる。
ヌーガさんとシファルさんは呆れた表情で、ランカさんを見つめた。
「え~、私、引退後は全く働きたくないのよ! だから、50歳までに必要なお金を、あと15年で貯めないと駄目なの!」
「引退後は働きたくないの?」
ランカさんの言葉が気になり、私はランカさんを見る。
「そうよ。これまで頑張って来たんだから、50歳からは遊びまくるの!」
そうなんだ。
しっかり、自分の未来の事を考えているんだな。
大通りに出ると、昨日の賑やかさが嘘のように、異様なほど静かだった。
「お店は開いているのに静かだね」
私の呟きに、ヌーガさんが周りを見る。
「そうだな」
少し前から、魔物が異常行動を起こしている事は、王都の住民に知らされていた。
その原因となる、捨てられた大地の事は伏せられていたけれど。
でも、長年王都に住んでいる者達は、森の奥に『何か』がある事に気付いていて、それが原因だとわかっていたそうだ。
そのお陰で、子供達の避難も円滑に行われたと聞いた。
「王都の住民は面白いのよ」
ランカさんの呟きに視線を向ける。
「面白いとは?」
お父さんの問いに、ランカさんが小さく笑う。
「どうでもいい話や嘘か本当かわからない話は、噂話として広めるのに、捨てられた大地については口が堅いの。もしかしてあの場所の事かと思っただけで、誰も話さないのよ」
ランカさんの説明に、お父さんは驚いた表情をした。
「そうなのか?」
「うん。王都で代々飲み屋を開いている友人に聞いたんだけど、親から『あの場所には関わっては駄目、話しても駄目。最悪死ぬわよ』と、小さい頃から聞かされてきたそうよ。危険だと思った場所には近づかない事、関わらない事が、自分を守る事だからね。それもあって、王都の住民は、捨てられた大地については口が堅いのよ」
自分の身を守る為に話さないという事か。
「わぁ~、冒険者ギルドはすごい人が集まっているな」
ラットルアさんは冒険者ギルドの建物の前を見て、驚いた声を上げた。
私も、集まっている冒険者の数を見て、目を見開いた。
「話には聞いていたけど、多いね」
集まっている冒険者達を見ると、いつもより年齢層が高いように見えた。
「あっ、数々の功績を挙げた上位冒険者達がいるな」
お父さんの視線の先を見ると、師匠さんと同じ年頃の冒険者達の姿が見えた。
「お父さん、知っているの?」
私の問いに、お父さんが頷く。
「あぁ、何度も功労者に選ばれた上位冒険者で、俺の世代では有名人だ。急に引退したから、あの時は驚いたけど……ずっと鍛えていたみたいだな。昔と見た目があまり変わらない」
昔は知らないけれど、師匠さんと同じ年頃の冒険者達は体格も良く、確実に即戦力になれるだろう。
「今、冒険者ギルドから出てきた上位冒険者達も有名だな。村を襲った沢山の魔物を、たった4名で退けたんだったよな」
シファルさんが説明している冒険者達を見る。
白髪を短く刈り上げた4人は、師匠さんより少し若く見えた。
「ずっと鍛えてた感じね。もしかして、捨てられた大地で起こる次の暴走に備えていたのかしら」
ランカさんの呟きに、お父さんは彼女を見る。
「そうかもしれないな。冒険者ギルドから出てきた上位冒険者達も、急に引退したから、実は大怪我を負ったのではないかと噂が流れていたよな」
そうだったんだ。
「お待たせしました。今から資料を配ります。大切な事が書いてあるので読んで、理解してください。わからない事があれば、必ず理解できるまで質問してください。1人の誤りが大怪我を招きます。確実に理解したうえで、捨てられた大地の掃討作戦に参加してください」
シャーシャさんはそう言うと、冒険者達に資料の紙を配るよう、ギルド職員に指示を出した。
「こちらが資料です、よろしくお願いします」
女性のギルド職員が私を見て少し驚いた表情を見せたが、すぐに資料を私に差し出した。
「ありがとうございます」