1170話 捨てられた大地の資料
1170話 捨てられた大地の資料
資料を見ると、判明している範囲が示された捨てられた大地の地図と、そこに魔法陣の位置が示されていた。
「まずは魔物を討伐して拠点づくりみたいだな。拠点が出来れば、そこから奥へ突き進むのか」
お父さんの言葉に、地図に示された拠点予定地を見る。
「拠点を移動するのではなく、増やしていくのね。結界のマジックアイテム? こんな物があるの?」
ランカさんが不思議そうに呟くと、傍にいた冒険者の男性が彼女を見た。
「魔法陣研究所が作ったらしいぞ」
「えっ、それは本当に?」
「あぁ、噂だけど。でも、オルフさんに聞いた冒険者がいて否定しなかったそうだから、本当の事じゃないかな」
「そう。教えてくれてありがとう」
ランカさんがお礼を言うと、冒険者の男性は笑って首を横に振り、仲間に視線を戻した。
「結界のマジックアイテムがあれば、拠点で十分に休憩出来るわね。ただ、どれくらいの性能なのか、ちょっと気になるけど」
ランカさんの言葉に、私は首を傾げる。
「魔物除けは凶暴化した魔物に効かないと聞いたけど、魔物回避剤も効かないのかな?」
「アイビー。次のページに魔物除けと魔物回避剤についての注意がある」
私の呟きに、シファルさんが資料の2ページ目を示す。
私はシファルさんが教えてくれたページを開き、内容を読む。
「えっ、魔物除けも魔物回避剤も使用禁止? 捨てられた大地にいる凶暴化した魔物は、使用されている薬草の匂いに引き寄せられるんだ。知らなかった」
そういえば、魔物回避剤と魔物除けって、何が違うんだろう。
どちらも魔物が嫌う薬草で、魔物を近づけないものだよね?
「あっ、でも1つだけ、ドゴップという薬草だけは魔物除けに使えるみたいだな。ドゴップ? 聞いた事がない薬草だけど、知っているか?」
ヌーガさんが、皆を見渡す。
「知らないわね。初めて聞く薬草の名前だわ。シファルは?」
「俺も初めて聞く名前だ。ドルイドは?」
シファルさんの問いに、お父さんも首を横に振る。
ドゴップ?
本に、そんな薬草の名前は載っていなかった気がする。
「資料にも載っていますが、魔物除けや魔物回避剤は、捨てられた大地へ持っていけません。持っている魔物除けや魔物回避剤はここに置いてから、捨てられた大地へ向かってください。少量でも、持っていたらしつこく襲って来る事があります。絶対に、持って行かないようにお願いします」
シャーシャさんの言葉に、冒険者達は持っていた魔物除けと魔物回避剤をマジックバッグから出す。
「カゴを渡しますので、そこにチームごとに入れ、札にチーム名を書いてください。捨てられた大地から戻って来た時に、返却いたします」
シャーシャさんの指示で、ギルド職員がカゴを配る。
カゴを受け取った冒険者達は、魔物除けや魔物回避剤を入れ、札にチーム名を書いた。
「アイビー。魔物除けは?」
お父さんの言葉に、周りを見ていた私は、急いでマジックバッグから魔物除けを出してカゴに入れる。
「お父さん」
「どうした?」
お父さんは、札に「星」と書くと、ギルド職員にカゴを渡した。
「よろしくお願いいたします」
「はい。わかりました」
お父さんの視線が私に向く。
「魔物除けと魔物回避剤の違いは何? 私、よくわからなくて」
「あぁ、使っている薬草の違いだよ。魔物除けは1ヶ月か2ヶ月くらい魔物が近付けない薬草が使われているんだ。そして魔物回避剤は、魔物が近付けない力は魔物除けより強いけど、1週間くらいで効果が切れる薬草が使われているんだ。人が多く集まる場所、短期間だけの拠点などには魔物回避剤が使われるな」
薬草の違いだったんだ。
「わかった、ありがとう」
「魔物について読んだか?」
シファルさんの問いに、お父さんと私は急いで資料の続きを読む。
「死なない魔物か」
資料には、凶暴化した魔物について、かなり詳しく載っていた。
1番危険視されているのが、お父さんが呟いていた死なない魔物。
この魔物は、頭を切り落としてから10分以上も冒険者を襲ったとある。
対処法としては、脚を切って、走れないようにする事らしい。
2番目に危険視されているのが、出会った瞬間から、悲鳴のような鳴き声を上げ続ける魔物。
この魔物は、他の魔物に敵の存在を伝えていて、すぐに魔物が集まってくるみたいだ。
近くにいると気づいたら、すぐにその場から離れるように書いてある。
3番目に危険視されているのは、よだれをたらし、やせ細っている魔物。
凶暴化してから既に数日たっている為、どんな攻撃をしてくるのか予測が出来ないとある。
魔物にはそれぞれ得意な攻撃方法があるが、凶暴化し、数日たった魔物はいろいろな攻撃をしてくるみたいだ。
ほかの凶暴化した魔物も、痛みを感じにくいのか、攻撃が当たっても動きが遅くなったりしない為、確実に仕留めるまで気を緩めないと書いてあった。
「死なない魔物は、脚に矢が刺さったら、通常通り足止め出来るんだろうか?」
シファルさんの疑問に、声が聞こえたのか周りの冒険者達が彼に視線を向けた。
「俺が聞きますね。シャーシャさん、質問があります」
私達の傍にいた冒険者の男性が、シャーシャさんに向かって手を上げる。
「はい、なんでしょうか?」
「死なない魔物ですが、脚を矢で射れば足止めが出来ますか?」
「矢が脚を貫通して地面にある程度刺されば身動きが出来ない状態になる為、足止めになりますが、脚に矢が刺さっただけだと少し動きが遅くなる程度です」
「そうですか、ありがとうございます」
シャーシャさんの説明に、男性は納得した様子で頷く。
「弓を使う冒険者達は、まず、魔物の目をつぶしていただきたいです。凶暴化した魔物は、通常より動きが機敏です。ですが、目が見えなくなると少し動きが鈍くなるとわかっています。ただ、両目が見えなくなっても、人の匂いをかぎつけて襲ってきますので注意してください」
「目か……」
シャーシャさんの言葉に、シファルさんがゆっくりと頷く。
「他に聞きたい事はありますか?」
シャーシャさんの問いに、集まっている冒険者達が考え込む。
「魔法による攻撃が効かない魔物もいますけど、凶暴化した魔物にも効かない種類がいますか?」
「あら? 資料に載っていなかったかしら」
女性冒険者からの問いに、シャーシャさんは資料をめくる。
「ごめんなさい。資料が抜けているわね。捨てられた大地にいる凶暴化した魔物は、全ての魔法攻撃が効きます。ですが通常の7割くらいしか傷を負わせられません」
魔法を使った攻撃で傷を負わせられるけど、威力が弱まるって事だね。
矢に魔力を籠めて攻撃しても同じなのかな?
「これは、剣や矢に魔力を籠め、攻撃しても同じです」
同じなのか。
「魔物については、新しい事がわかり次第伝えます。我々から情報が届いたら、すぐに確認してください。質問はないようなので、今から捨てられた大地へ向かっていただきます」
シャーシャさんの宣言に、冒険者達に緊張が走る。
「さて、頑張りますか~」
「「そうだな~」」
緊張感が漂う中、少し気の抜けた声が聞こえた。
声のしたほうを見ると、お父さんが有名な冒険者だと言っていた、年配の冒険者達がいた。
「頼むぞ、目つぶし」
「任せろ。近くは見えんが、遠くは見える!」
彼らの会話に、冒険者達の間から小さな笑い声が聞こえた。
「緊張感がいい具合に和らいだな。さすが」
周りの様子を見たお父さんは、年配の冒険者達に視線を向けると笑った。