1171話 フォロンダ公爵と捨てられた大地6
1171話 フォロンダ公爵と捨てられた大地6
―フォロンダ公爵視点―
「冒険者達が、捨てられた大地へ向かったと報告が届きました」
「そうか」
アマリの言葉に、俺は溜め息を吐く。
今、出来る準備は全てやった。
でも、これだけでは足りない事がわかっている。
「マジックアイテムを止める道具は作れそうか?」
「まだ、なんの報告もありません」
俺の問いに、アマリの落ち込んだ声が届く。
「……そうか」
魔法陣研究所が頑張ってくれたお陰で、拠点を守るマジックアイテムが出来た。
でも、根本的な問題を解決するには、魔法陣を無効化する物と戦時中に作られたマジックアイテムを止める物が必要になる。
「俺は、間に合わなかったんだな」
俺のせいで、何人の冒険者が死ぬだろうか?
あの場所に冒険者達を送る以上は、亡くなる者が出る事はわかっている。
でもその数を最小限に抑える為に、それぞれの専門家に情報を公開し、協力を求めた。
そのお陰で、ある程度、守る為の準備は出来た。
ただし、ある程度だ。
全員の命を守る準備は出来なかった。
「捨てられた大地についての資料は、全て読み終わったのですか?」
「あぁ、ようやく読み終えたよ。まさか、捨てられた大地を管理する組織がなくなっていたとは思わなかった」
教会が送り込んだ者が複数見つかった為に、その当時の組織の代表が情報を守る為に資料を燃やしたと見せかけ、組織も解散させた。
教会関係者の排除が終わってから、組織を再構築するまで、期間限定で捨てられた大地の管理を、ある冒険者に任せた。
まさか、組織が再構築されず、ずっと冒険者達が捨てられた大地を管理し続ける事になるとは、想像もしなかっただろう。
「歴代のギルマス相談役には頭が下がるよ。資料を読み終えて、こちらから話を聞きに行くまで、捨てられた大地について話す事はなかったからな」
「そうですね。私も歴代のギルマス相談役が、捨てられた大地の管理者であるとは思いませんでした」
俺の言葉に、アマリは感心した様子で頷いた。
コンコンコン。
「クースです」
魔法陣研究所のクース主任の声に、俺は視線を執務室の出入り口へ向ける。
「どうぞ」
「失礼します」
「どうだった?」
俺の問いに、クースは首を横に振る。
まぁ、クースの真剣な話し方から察しはついていたけどな。
彼は、物事がうまくいっている時に、語尾が伸びる癖があるからな。
「駄目だった。王城の地下にある物は動かせない。動かした瞬間に、何があるかわからない状態だ」
「無理か……」
王城の地下には、戦時中に作られたマジックアイテムが多数保管されている。
このマジックアイテムは、王都の近くで見つかり、今の技術では解体出来なかった危険物だ。
いつ動き出してしまうかわからない為、魔法陣を利用して制御している。
「私、あの場所を見て驚きました」
アマリの呟きに、俺は彼女へ視線を向ける。
「極秘だからな」
魔法陣の維持に、犯罪を犯した貴族達の魔力が使用されている。
ただし、それだけでは足りない。
その為、この王都に住んでいる者達から少しずつ魔力を貰っている状態なのだ。
そして、マジックアイテムが回収されるたびに、王都は広がって来た。
それは、人を集めて、1人から奪う魔力を極力少なくする為だ。
そのお陰で、今までこの事がバレずにすんでいる。
「やっている事は最低だが、あれらのマジックアイテムが動き出せば、どうなるかわからないからな」
広大な土地を燃やし尽くし、毒素までばらまくマジックアイテムや、地面に振動を与えて地形を変えてしまうマジックアイテムを作った者達は、それらが世界にばらまかれた時、どんな未来になると想像していたんだろうか。
「あれらが少しでも解体出来ていれば、王都の移動も可能だったのですが……。すみません、力が足りず……」
クースの言葉に、アマリは首を横に振る。
「クース主任のお陰で結界のマジックアイテムが出来たのです。あれがなければ、最悪、冒険者達の全滅もあったでしょうから」
バーン!
「フォロンダ公爵、失礼します!」
急に開いた執務室の扉に、アマリがナイフを構える。
「あっ! すみません!」
アマリの態度を見た侵入者は、慌てて両手を上げて謝る。
「グジュ、気を付けてくださいね」
グジュは、捨てられた大地の変化を毎日報告に来てくれる中位冒険者だ。
「それで、どうしたんだ?」
中位冒険者のグジュは捨てられた大地には入れない。
その為、彼は連絡係を務めたり、資材や食料を補給したりして走り回っている。
「捨てられた大地に集まっていたスライムの一部に変化がありました」
グジュの言葉に、俺は眉間に皺を寄せる。
「どんな変化だ?」
スライムが集まって来た理由もまだわかっていないのに、今度はスライムに変化が起きた?
「スライムの体に模様が現れたんです」
模様?
それって、アイビーがテイムしているスライム達に現れた模様と同じか?
ドールがアイビー達に許可を貰い、俺に報告してくれたんだよな。
「どんな模様なんだ?」
「はい、数匹のスライムに頭を下げてお願いしたら、模様を書き写してもいいと言ってくれました」
「えっ、スライムと意思疎通が出来るようになったの?」
グジュの言葉に、アマリが驚いた声を上げる。
「意思の疎通というか、俺が質問したら『はい』と『いいえ』で違う動きをしてくれるようになったから、わかるようになったんです。お腹がいっぱいで機嫌が良いと、色々教えてくれますよ」
「そうなの……」
グジュの説明に、アマリが羨ましそうな表情をした。
「書き写した模様はこれです」
グジュは持っていた紙を、俺の前に広げる。
3枚の紙には、それぞれ少しずつ違う模様が描かれていた。
「これがスライムに現れた模様か」
3枚のうちの一枚を手に取る。
この模様、ドールから届いたソラ達に浮かび上がった模様と似ている。
いや、同じか?
「この模様の意味は聞いたのか?」
「進化だと言っていました。どうして今なのか聞くと、必要だからだそうです」
今、必要だから進化したという事か?
「進化の条件はわかったのか?」
俺の問いに、グジュが首を横に振る。
「沢山食べたら進化するのかと思ったんですけど、進化したスライムより沢山食べていたスライムが進化していなかったので違うみたいです」
食べる量は関係ないのか。
では、進化する条件はなんなんだろう。
「これ、ちょっと失礼します」
クースがスライムの体に浮かんだ模様を書き写した紙を手にすると、無言でジッと見つめる。
「どうしたんだ?」
「……」
俺の問いが聞こえていないのか、反応せず、ただ紙を見続けるクース。
少しの間、執務室が静寂に包まれた。
「あぁ、そうか!」
いきなりクースが声を上げる。
その声に驚いたグジュがびくりと体を揺らす。
「クース、どうした」
「そうです。模様。模様だ。あのマジックアイテムにもあった!」
マジックアイテムにも、この模様が?
「もしかしたら……いけるかもしれない。グジュ、感謝する。フォロンダ公爵、急用が出来たので失礼します」
クースはグジュにお礼を言うと、扉に向かいながら俺に挨拶をし、返事も待たずに執務室から出て行った。
「……何かわかったみたいですね」
アマリの言葉に、俺は頷く。
「そうだな」
クースがあれほど慌てて出て行くのは珍しい。
クースはマジックアイテムの何かに気付いた様子だった。
もしそれが、マジックアイテムを止める為の「何か」であればいいのだが。
手に持っていた紙を見る。
スライムは、他の魔物とは違い、この世界が生み出す存在だ。
そして、そのスライムが沢山集まる場所では、大きな異変が起きたと文献に残っている。
「グジュ」
クースの出て行った扉を唖然と見つめていたグジュが俺に視線を向ける。
「はい」
「捨てられた大地に集まっているスライムの数は、わかるか?」
「正確な数はわかりませんが、150匹以上いると思います」
150匹!
「そうか」
やはり捨てられた大地で、大きな異変が起こっているようだ。