668話 落ち着く場所
668話 落ち着く場所
アリラス:元ガルス
タンラス:元エバス
リーリア:元アルス です。
「洞窟の魔物が溢れたから、私達が入った洞窟にも異常が出たのかな?」
リーリアさんの言葉にお父さんが首を横に振る。
「洞窟同士は繋がっていないし、それに一番遠い洞窟とは離れすぎているから関係ないだろう。まぁ、この村周辺ほど洞窟が集まっている場所は無いから、ここだけで起こる問題もあるかもしれないが」
洞窟同士は繋がってないんだ。
地下にあるから、ある程度影響を及ぼすものだと思い込んでいた。
調べないで思い込むのは駄目だね。
「そうだアイビー、いつもより人が多くなっているみたいだけど、このまま屋台を巡っても大丈夫? まだまだ人が増える可能性もありそうだけど」
リーリアさんが、不安そうな表情で私を見る。
「大丈夫です。お父さんの服をギュッと掴むので」
隣にいるお父さんが着ている上着の右裾をギュッと掴むと、笑ってリーリアさんを見る。
あれ?
オカンコ村に来てから、お父さんの服を掴む回数が増えているからかな?
なんだか、この場所にホッとしている気がする。
「どうした?」
視線を上げると、不思議そうに私を見るお父さん。
「お父さんの服を掴んでいると、落ち着くなぁって」
「えっ、ははっ。嬉しい事を言ってくれるな」
お父さんが、私の頭をちょっと強く撫でる。
珍しい。
いつもは優しく撫でるのにな。
あれ?
お父さんの耳がちょっと赤いような気がする。
「なんだ? どうした?」
声がいつもより、ほんの少し高くなっている。
「なんでもないけど……」
どことなくいつもと様子の違うお父さんを見ていると、すっと視線が逸らされてしまう。
えっ?
本当にどうしたんだろう?
「アイビーも大丈夫みたいだし、行こうか」
あっ、いつものお父さんの声だ。
「それじゃあ、手分けして何を買いに行くか決めよ!」
リーリアさんが、紙を取り出してほしい物を書き出した。
皆の意見を書き込んで、最終的に肉料理とサラダ、スープ。
そして甘味を買う事に決定。
「商品券だけでは無理そうだな」
アリラスさんの言葉に、お父さんが苦笑する。
「まぁ、分かっていた事だろう」
確かに、食べだすと止まらない皆だからね。
あれだけの商品券で満足するはずがない。
「アイビー、一緒に買いに行こう!」
リーリアさんが、私をギュッと抱きしめる。
「うわっ」
こんな事をされたのは……小さい頃はあったけど久しぶりだ。
リーリアさんの温かさが伝わって、ちょっと恥ずかしいかも。
「えっ」
ん?
タンラスさんを見ると、ちょっと不服そうな表情でリーリアさんを見ている。
もしかして、一緒に買いに行きたかったのかな?
「手分けするのは止めて、皆で買いに行こうか」
お父さんの言葉に、タンラスさんが頷く。
その隣でアリラスさんが、大きなため息を吐いた。
よく分からないけど、手分けして買いに行くのは無くなったみたい。
まぁ、一緒にいた方が楽しいからね。
「それじゃ、まずは甘味から行くか」
お父さんの言葉に、リーリアさんが首を傾げる。
「肉じゃないんだ」
「甘味は、冷める心配がないからな」
なるほど。
確かに、温かい甘味を買わない限りは冷める心配はないね。
「行くぞ」
アリラスさんを先頭に、先ほどより人が多くなった大通りを進む。
お父さんの服に掴まっているので、人が多くなっているのに不安を感じない。
やっぱり、この場所は落ち着くみたい。
嬉しくなって小さく笑うと、ぐしゃっと頭を撫でられた。
「あの店にしよう」
タンラスさんが、冒険者や町の人の並び具合からお店を選んで行く。
リーリアさん曰く、タンラスさんは美味しい屋台を見つけるのは上手なので任せた方が良いらしい。
「アリラスは、今の動きを見て少し先の動きを予測するのがうまいな。タンラスは、視線や小さな表情の変化から、感情を読むのがうまいな」
お父さんが2人を見て、こっそり教えてくれる。
確かにアリラスさんの後ろを歩いていると、人にぶつかる回数がぐっと減る。
タンラスさんの感情を読むのはよくわからないけど、美味しいお店を見つける事と関係があるのかな?
「そうなの?」
「あぁ、あれは……人間関係で苦労してきたんだろう」
そういえば、2人の過去は聞いた事が無いな。
聞いたのは、リーリアさんと一緒に逃げるようになってからの話ばかりだ。
「これで、最後だね」
リーリアさんが、店主さんから肉と野菜の煮込み料理を受け取って、私達を見た。
「そうだな。それじゃ、宿に戻ろうか」
そういえば、今日の夕飯を断ってない。
皆が持っている屋台で買った料理を見る。
「どうした?」
「今日の夕飯を断ってないよね。こんなに買って大丈夫?」
どう見ても、夕飯でも満足できる量を買い込んでいる。
「大丈夫だ。洞窟に行くと店主のチャギュに言ったら、夕飯は翌日でも問題ない物を作っておくと言ってくれたから」
そうか。
「それなら、大丈夫だね」
大通りを抜け、宿のある通りに入る。
今日は、森に出ている冒険者達が全員戻って来ているからなのか、いつもと違い宿のある通りもずいぶん人が多い。
「ここも人が多いね」
「森に出た魔物が何か分かったのか?」
宿に向かっていると、冒険者達の会話が耳に届いた。
お父さんも気になるのか、少し歩みが遅くなる。
「それが奥の洞窟から溢れた魔物だったらしい。しかも、30匹以上いたらしいぞ」
洞窟から溢れた魔物。
そういえば、洞窟の活動期だったな。
あっ、私達が入った洞窟でも強い魔物が現れたのは、活動期だったからかもしれない。
「おかしくないか?」
えっ?
「一番奥の洞窟は、少し前に活動期の影響で魔物が溢れた場所だろう? こんな短時間で、また魔物が溢れるなんて聞いた事はないぞ。その情報は本当なのか?」
「本当だって。冒険者ギルドから上位冒険者数名に指名の討伐依頼が出たのを、俺が自分の目で見たんだから」
また聞きの情報では無いなら本当なんだろうな。
活動期とは関係のない異常?
「怖いね」
「何が起こっているのか分からないのが、問題だな」
冒険者達の会話を一緒に聞いていたお父さんが、神妙に頷く。
「あれ?」
宿に向かって歩く速度を少し上げると、少し前に知り合った男性の姿を見つけた。
「ん? あっ、ガバリ団長?」
私の視線の先を見たお父さんが首を傾げる。
やっぱり、ガバリ団長さんで間違いないよね?
「おっ、また会ったな」
気軽に手を挙げて、こちらに来るガバリ団長さん。
アリラスさん達が少し警戒したのが分かった。
「オカンコ村の自警団ガバリ団長だ」
お父さんの説明に、ガバリ団長さんが「よっ!」とアリラスさん達に挨拶をする。
それに戸惑った表情の3人。
宿の近くでガバリ団長さんに会った事は話したけど、自分達まで会うとは思わなかったのだろう。
「今日は森が大変だったみたいだな。そういえば、洞窟にはもう行ったのか?」
「はい。今日、行きました」
「今日か。それはちょっと残念だったな。そうだ、森が落ち着いたら緑の洞窟に行ってみろ。あそこは、金になるマジックアイテムがよく落ちるぞ」
緑の洞窟は、ミッケさんの評価では中位冒険者以上にお薦めしていた洞窟だよね。
「いえ、俺達は初心者用の洞窟からなので」
お父さんの言葉に、不思議そうにお父さんとアリラスさん達を見る。
「初心者用? 嘘だろ?」
ガバリ団長さんの言葉にお父さんが曖昧に笑う。
それを見たガバリ団長さんは、何かを納得したように頷いた。
「だから『あすろ』なのか。なるほど」
宿「あすろ」は問題を抱えた者達を匿う宿だからね。
間違いではない。
というか、ガバリ団長さんはあの宿の意味を知っているのか。
「まぁ、いつか緑の洞窟に行ってみてくれ。じゃあな」
手を振って大通りに向かうガバリ団長さん。
この場所でまた会ったという事は、やはりこの近くに用事があるのだろうか。