番外編 引き継ぐ者
番外編 引き継ぐ者
―ミッケ視点―
アリラス達の護衛をしながら宿に戻る。
さすがにこの人数を1人で守るのは無理なので、密かに4人が護衛についている。
んっ?
ドルイドさんの視線が、隠れている護衛の方を向いているような……これは、バレてるな。
あっ、こっち見た。
笑っとこう。
本当にドルイドさんは鋭いよね。
お父さんと似た物を感じる。
絶対に敵に回したらやばい感じ。
お父さんも、いつもは気のいい団長なんだけど怒らせるとそれはもう恐ろしいから。
本気で切れた状態を見た時は、腰が抜けたからね。
まぁ、あの時の私はまだ6歳で子供だったからしょうがない。
今なら腰を抜かすような事は無いわ。
きっと。
それにしても、さっきのお父さんの様子が少し気になるのよね。
少し焦っているような表情をしていたわ。
隠していたけど、家族だからね。
それぐらいの変化は分かるつもり。
何かあったのかな?
……アリラス達を無事に宿に届けたら、お父さんに会いに行こうかな。
あれ?
ドルイドさんの様子が少しおかしいな。
別行動?
護衛をしている事を知っているのに?
ん~、本当に調子が悪そうだから仕方ないか。
あっ、密かに謝られてしまった。
これは、どうしようもない状態と言う事か。
えっと、アイビーに1人護衛を付けよう。
隠れている仲間に合図を送ると、アリラス達と先に宿に戻る。
ドルイドさん、かなり顔色が悪かったわ。
ちょっと心配だから、チャギュさんに様子を見ておくように言っておこう。
宿に着くと、カギュが出迎えてくれた。
私の補佐をしながら、この宿に泊まる訳あり達を守る役目を持つ仲間。
守るためなら、結構容赦がない。
店主をしているチャギュさんも容赦がないけど、2人が揃うと最強。
昔、王都の教会から送り込まれた冒険者3人を捕縛したと連絡が来たため、引き取りに来た事があった。
捕まえられた3人は、引き取りに来た私に「ここから連れ出してください」と泣きながら縋りついたのよね。
さすがにあれには驚いたからね。
いったい何をしたら、いい年をした冒険者の男が本気で泣くのか。
ドルイドさんとアイビーが宿に戻って来たのを確かめてから、カギュに後を任せて自警団に向かう。
仲間の1人がスッと隣に来て、アリラスさん達の様子を窺っていた者達がいた事を知らせてくれた。
さて、どうしようかな。
捕まえるために宿を襲わせたら、ドルイドさんに切れられそうだよね。
もしアイビーにかすり傷でも出来たら……あっ、想像だけで寒気が。
教会から送られた刺客の方が、簡単に処理できるわね。
うん、それならとっとと捕まえよう。
「捕縛」と言うと、仲間は頷き傍を離れた。
リーリアを狙う、占い師とその護衛達もそろそろ仲間達が捕まえているはず。
別にこの村に来るまで待つ必要なしと、王都から指示があったらしいから。
たぶん、1日でも早く教会から出て来た占い師を捕まえたいんだろうな。
もしくは、一刻も早く処分したいか。
……処分の方かな。
「お父さん? いる?」
お父さんがいるはずの執務室の扉を叩く。
「ミッケか? 入っていいぞ」
カチリ。
鍵の開く音に首を傾げる。
執務室の鍵を閉める事なんてほとんど無いのに、どうしたのだろう?
「どうしたの? 鍵なんて閉めて」
「入ったら、鍵を閉めてくれ」
お父さんの雰囲気に、すぐに鍵を閉める。
執務机に載っている大量の書類。
傍に寄って、1枚を手に取る。
「お父さん、これ」
手に取った紙には、魔法陣が描かれていた。
他の書類を見ても、全て魔法陣が描かれている。
心配になってお父さんの様子を窺う。
魔法陣に魅入られる人がいると聞いた事がある。
まさか、お父さんが?
心配になるが、一心不乱に書類を確認しているのはいつものお父さんだ。
いや、いつもより真剣に書類を見ているかもしれない。
「ん? あぁ、大丈夫だ。別に魔法陣に取りつかれたわけじゃない。ただ、ある魔法陣をさがしているんだ。それが、見当たらなくてな」
「そうなんだ」
魔法陣の事だと、私は手助けが出来ない。
なぜかお父さんは、魔法陣に関わる事を本気で嫌ったから。
だから、私も関わらないようにしてきた。
でも、そろそろ魔法陣について話し合いたいと思うのよね。
私は組織の人間として生きると決めたのだから。
お父さんも覚悟してもらわないと。
「あった、これだ」
お父さんを見ると、眉間に深い皺が刻まれている。
これは、悪い事が起きたみたいね。
お父さんから怒りが伝わってくる。
久々のこの感覚に少しだけ体が震える。
やっぱり本気のお父さんは、まだまだ怖いかも。
「アイビーに言われるまで気付かなかった」
アイビー?
「洞窟内で何が起こっていたのか聞いたか?」
「聞いたわ。魔法陣がどこからともなく現れて、木の魔物が処理してくれていた。今までにも同じ事があった可能性があって、その魔法陣が発動すると村に大きな被害があっただろう。よね?」
簡単に言えばそういう事だったわ。
いい加減、王都の馬鹿どもは諦めてくれたらいいのに!
「魔法陣が現れた空間は、前日まで確認が取れていなかった空間だ。洞窟ではたまに急に空間が出没するから気付かなかった」
確かに洞窟内では、昨日まであった道が消えたり新しい道があったり。
空間が無くなったり、新しい空間があったり。
短時間で色々な変化が起こる。
だから魔法陣が描かれていた空間も、洞窟自体が描いた物ではないかと一部の自警団や冒険者達が話していたわね。
「空間移動」
お父さんの言葉に首を傾げる。
空間の移動?
それが出来るなら、確かに魔法陣を描いた空間を洞窟内に移動させればいい。
でも、洞窟内にそう上手く繋がるかしら?
「これは、その座標を確定する魔法陣だ」
「えっ? 座標?」
お父さんから紙を受け取る。
そう言えば、関わっていいのかな?
チラリとお父さんを見るとため息を吐いていた。
「本当は関わらせたくない。でも、俺の時代では解決出来そうにないからな。だから次代のミッケに繋げるよ」
そっか、お父さんから魔法陣の問題の解決を託されるんだ。
それって、認めてくれたという事だよね。
「ふふっ。ありがとう」
「気を付けろ。俺は魔法陣に魅入られて破滅していく奴らを見てきた。関わればきっと苦労する事になる」
大丈夫といいたいけれど、魔法陣がどういう物なのか分かっていない。
だから安易に大丈夫とはいえない。
「苦労するかもしれないけど、飲み込まれないように注意するから」
お父さんの目を見て応えると、頷いて少し辛そうな表情をした。
それを見て、手の中の紙に視線を向ける。
複雑に描かれた円の中の文字や絵。
正直、何を表現しているのかさっぱり分からない。
「魔法陣は、魔法を発動させるための道具じゃない。この世界を終わりに近付ける負の遺産だ」
この世界を終わりに?
「魔法陣について何を知っている?」
「『魔力を消費せずに魔法を発動できる物。使い続けると、自我を失って狂っていく』と聞いたわ」
お父さんを見ると、頷いてくれた。
良かった、合っていたみたい。
「魔法を発動する以上、魔力は絶対に必要だ」
そうなの。
だから、魔法陣は不思議なのよ。
「でも、魔法陣は発動させた者の魔力は使わない。何故なら、この世界から魔力を補っているからだ」
この世界から魔力を?
「大地や風に魔力が含まれているのを知っているな?」
凄く微量で普通では気付かないほどだけど。
「うん。この世界を動かすために必要な魔力だと教わったわ。あれ? そんな魔力を使っても大丈夫なの?」
あっ、世界を終わりに。
つまり、魔法陣を使えば使うほど世界から魔力を奪っていく事になって。
それはいずれ、この世界をおかしくさせる原因になる。
「分かったか。魔法陣をなぜ使っては駄目なのか」
「うん。でもそれならどうして使う者がいるの?」
この世界を壊すと知りながら。
「魔法陣に魅入られているからだ。なにより、魔法陣を使えば出来ない事は無いと言われている」