734話 収穫だ
734話 収穫だ
畑の中で手を振ってくれた男性は、収穫作業を管理しているアビラさん。
挨拶をすると、凄く感謝された。
なんでも今収穫している根野菜のカポは、早く土から出さないとアクが強くなってしまうらしい。
そのため、今は人手がいっぱい欲しいと言われた。
畑に視線を向ける。
バトアさんが管理している畑は他の畑より広く、育てているカポの数も多かった。
今見たところ、全体の四分の一の収穫が終わっている。
残り四分の三。
かなり頑張らないと駄目かもしれない。
「頑張ります」
「ははっ。やる気は嬉しいけど無理はしないようにな。作業は腰に来るから」
アビラさんの言葉に、畑で作業している人達を見る。
彼等は中腰で、土から掘り起こしたカポをカゴに入れていた。
確かに、これは腰に来るね。
「それに今日からは力強い助けがあるから。おっ、来たな」
アビラさんの視線を追うと、背の高い男性がクワ?
いや、形はクワに似ているけど大きすぎる。
「彼が土の中からカポを出すから、カゴに入れてくれるかな?」
「「はい」」
アビラさんに作業に必要なものがある場所を聞いて、取りに行く。
「うおぉぉぉぉ」
えっ?
畑には不似合いな雄叫びに、慌てて畑に視線を向ける。
「凄いな」
視線の先には、大きなクワのような道具を土の中に深く入れ、 畝 ( うね ) に沿って走る男性がいた。
男性が走り終えた場所を見ると、土の中からカポが掘り起こされていた。
「急いで準備をしようか」
「うん」
男性が走るたびに、土からカポがどんどん出てくるのは見ていて面白い。
ただ、掘り起こすカポが多いと、カゴに入れるのが大変だな。
「あっ」
収穫作業の時に使う手袋とカゴを取りに来た場所で、大きなクワのような道具を見つけた。
畑で作業をしている男性を見る。
やっぱり同じ道具だ。
近くで見ると、土の中に入れる部分が本当に大きい事が分かる。
そっと手を伸ばすと、持ち上げてみる。
「あれ?」
重すぎて持ち上がらない。
まさか、こんなに重いなんて。
男性が扱っている姿を見る限り、それほど重い道具には見えなかった。
というか、軽く見えた。
「よっ」
お父さんが道具に手を伸ばし、持ち手を掴んだ。
「これは、重いな」
そう言いながらも、クワのような道具は持ち上がっている。
「この道具、わざわざ重く作ってあるんだと思うぞ」
「そうなの?」
「あぁ、こんな重い道具なんて普通は使わない。疲れるだけだからな」
確かに、この道具は動かすだけでも相当体力がいるだろうな。
「行こうか」
「うん」
そうだ。
収穫作業を早く始めないと。
道具が置いてあった場所から出ると、男性が畑を走っている姿が見えた。
あの重い道具を持って走れるのは、本当に凄い力だよね。
「さっきの道具、彼の為の物かもしれないな」
「そうかもしれないね」
というか、そうとしか考えられない。
あっ、あの重い道具を持ち上げた。
おぉ、肩に乗せた!
「ははっ、凄いな」
お父さんの驚いた声に、私も頷く。
肩に乗っている道具の重さを考えると、彼の肩が心配になる。
「全くふらつくことなく、歩いているな」
しばらく様子を見ていたお父さんは、感心したように言う。
やっぱりあの男性が持つと、重いはずの道具が軽く見えるな。
「うん」
「心配は無駄だな。収穫を始めようか」
「そうだね」
土から出たカポを、カゴに入れていく。
周辺のカポが無くなったら少し場所を変えて、またカゴに入れる。
何度も何度もそれの繰り返し。
「はぁ~、腰が!」
アビラさんの言う通り、1時間もすると腰に痛みが出て来た。
「アイビーは若いな。俺は既に出てるぞ。腰が悲鳴を上げている」
お父さんの言葉に、笑ってしまう。
「まだまだあるねぇ」
「そうだなぁ」
カポをカゴに入れても、入れても無くならない。
いや、収穫しているのだから畑からはカポは減っている。
でも、見た目が変わらない。
カゴに入れる分だけ、土からカポが出て来るから。
「あの男性の足を止めたいかも」
そうすれば、終わりが見えるのに!
「はははっ。その気持ちが痛いほどわかるな」
私の言葉に、お父さんが笑う。
やっぱり分かってくれるよね。
それから頑張って1時間。
本当に腰がギシギシ言っているような気がする。
「やばい~」
お父さんが立ち上がって背を反らす。
グギッ。
「「…………」」
凄い音が聞こえた。
「お父さん、腰は大丈夫?」
「少し痛いが、音の方が衝撃だ」
「ははっ。ここまで聞こえるほどだもんね」
苦笑いしながら頭を掻くお父さん。
「「あっ」」
髪からそっと手を離すお父さん。
カゴに入れていたカポには、土がついている。
つまり、手袋は土まみれ。
その手袋で頭を掻くとどうなるか。
「アイビー、俺の頭はどうなっている?」
「うん、見事に土まみれだよ」
お父さんの頭を見る。
右側の髪に、かなりの量の土がついている。
「はぁ。やってしまった」
お父さんの様子に笑ってしまう。
「そろそろ終わりで~す」
アビラさんの声に視線を向けると、両手を大きく振っていた。
畑を見ると、まだ土から出たカポの姿がある。
良いのだろうか?
お父さんを見ると、周辺にあるカポをカゴに入れていた。
私も、手の届く範囲のカポをカゴに入れる。
「終わりだよ」
バンガルさんの声に視線を向けると、腰をぽんぽんと叩いていた。
「んっ?」
バンガルさんがお父さんに視線を向け、上の方に視線が移動した。
「……また見事に――」
「言わないでください」
「ははッ。私も何度かやったよ」
バンガルさんが、こっちだよと歩きだすので付いて行く。
「一番悲惨な事になったのは、雨の日の収穫の日。土がしっとり濡れていていつもより手袋が汚れていたんだ。だから気を付けていたんだけど、その日に限って冷え込んだから腰が痛くてね。つい頑張ろうって思ってこう両手で顔をパンって」
あぁ、そんな事をしたら顔に土が。
「見事に顔が土まみれ。慌てて拭っても土のついた手袋だから悪化して。あの日は本当に見た目が凄い事になったな」
バンガルさんの表情は楽しそうなので、それも良い思い出なのだろう。
それにしても顔が土まみれか。
しかも濡れた土?
それは、嫌だな。
ここ数日は天気がいい予定だとシャンシャさんが言っていたから、最悪な事は無いかな。
「作業が終ったら、手袋は洗うから用意されてるカゴに入れて欲しい。で、お腹が空いているかな?」
「はい」
朝ご飯を食べてきたのにね。
汚れた手袋を軽く払って土を落とすと、バンガルさんが教えてくれたカゴに入れる。
「次はこっちだよ」
バンガルさんが、小さな建物の中に入って行くので続いて入る。
「ここではスープが貰えるからね。あっ、このスープは作業した者は無料だから」
「美味しそう。あっ、カポが沢山入っている」
スープを貰って、建物から出ると外には複数の椅子が置いてあった。
3つ並んでいる椅子に座ると、スープを楽しむ。
「すっごく温かいね、お父さん」
「あぁ、作業で体が冷えたから嬉しいな」
作業は中腰で腰にきついけど、それほど動き回る事が無いので、どうしても体は冷えてしまう。
冷えた体にぽかぽかとしたスープが嬉しい。
「「「ごちそうさまでした」」」
アビラさんが傍にいたので、声をかけてから宿に戻る。
「うわっ、落としても次から次に、土が髪の間から出て来る」
お父さんが歩きながら、髪に付いた土を払う。
髪の間に指を入れたせいで、髪の奥まで土が届いてしまったみたいだ。
「宿に戻ったら風呂だな」
お父さんの言葉にバンガルさんと私が頷く。
初めて畑で作業をしたけど、疲れたぁ。
明日もかぁ……いや、弱音は駄目。
明日も頑張ろう。